【オンライン授業】わたしたちの身体は、座りっぱなしに耐えられない

新型コロナウイルス感染症に伴う緊急事態宣言が解除されるとともに、小・中学校も少しずつ日常を取り戻しています。そしてオンラインによる学習活動も、教室に集まらなくても学べる選択肢として検討が続けられています。
保護者の立場としては、3か月間にもわたる学校閉鎖によって失われた学習をどのように取り戻していくかが気になるところですが、実は学校の授業よりももっと意識しなければならないことがあります。外出自粛期間の間、思うように外に出られなかった、発育途中の子供たちの「身体(からだ)」のケアです。

家の中だけで過ごすことは、意外に危ない

都市部では、外で遊んでいると心ない人々に叱られてしまうこともあり、終日家の中で過ごすしかなかった子どもたちも多かったと思われます(私の子どももそうです)。しかし、実は家の中に居続けることもまた危険なことです。これについて二つにしぼって解説してみます。
まず、屋外に出て日光を浴びる機会が減ると、ビタミンDが不足します。ビタミンDは骨に必須栄養素を届ける役割をしていますので、幼児や思春期などの成長が活発な時期に欠乏してしまうと、非常に影響が大きいと言えるでしょう。またビタミンD不足は、近視にも関連しているという学説があります(注1)。今時の子どもたちは、学習でも余暇でもずっと手元の液晶画面を見続けて目を酷使しているわけで、その影響は気になるところです。

子どもたちの身体は、たくさん運動する中で作られている

もうひとつは、圧倒的な運動不足です。本来、子どもたちは健康を維持するために、どれくらい歩くべきなのでしょうか。12年前の研究では、男子16,000歩/日、女子は14,000歩/日以上が推奨されています(注2)。それでも減少傾向にあるようで、40年ほど前の子どもたち(つまり保護者の皆さまの世代が子どもだったころ)は、平均して一日2万歩歩いていたようです。その昔はもっと歩いていたはずで、要するに子どもたちの身体は、成長期にたくさん歩いて、たくさん動かす中で形成されていくわけです。家の中にいて出来ていくわけではありません。
ビタミンDにしても歩数にしても、普通に通学したり元気よく外遊びしたりしていれば、それほど意識しなくても自然に賄われていたはずのものでしょう。学校や公園の閉鎖によって失われたのは、学びの機会だけではないのです。

人間の身体は、今でも狩猟採集民のまま

人間の身体は長い進化の過程で作られたもので、基本的な身体のメカニズムは今でも狩猟採集民のままです。たとえば、人間は直立し全身の筋肉や関節をバネのように使って走ることができます。また他の哺乳類のような柔毛のかわりに無数の汗線を持ち、汗をかくことで全身から熱を逃がすことができます。こういった事実からもわかるように、人間は長い距離を走って獲物を追いかけ、狩猟することができるように何百万年もの時間をかけて最適化されてきたとされます(注3)。
ところが、人間はその後、文化を発達させ、近年ではますます脳の働きを優先させるようになってきました。私たちは環境変化の極めて少ない室内で過ごすようになり、移動することを徐々に止めつつあります。

すべてを動かさなくてはならない

人間も動物です。犬を散歩に連れていかないとストレスで弱ってしまうように、私たちの身体も不自然な姿で机と椅子に縛り付けられることで、声にならない悲鳴をあげています。私たちの身体は、もともと同じ姿勢でじっと座り続けることに耐えられないのです。目と頭を酷使しながら身体は同じ姿勢で行われるオンライン授業やビデオ会議は、その最たるものでしょう。
生身の身体の進化は、人間自身が生み出した文明の速度にまったく追いついていません。現代人がかかる病気の多くは、そんな現代的な生活と身体のミスマッチによって引き起こされていることはよく知られています。便利なICT生活も、そこまで考えてデザインされているわけではないのです。環境人文学者のヴァイバー・クリガン=リードは、私たちが脳を持っているのは、ひとえに「動く」ためであり、全身を退化させないために、「すべてを動かさなくてはならない」と警告を鳴らしています(注4)。

考えることの基盤になっているのは健康な身体

3月下旬の天気のよい休日、私は息子と一緒に散歩しながら川沿いの道を歩きました。ところが、その日の夜中、彼は足が痛いと大騒ぎして一晩中泣き続けたのです。比較的体力のある子だったのですが、運動しなくなると知らないうちに身体機能が大きく低下してしまうことを思い知りました。
私自身、座りっぱなしで足腰が弱ってきたことを自覚していたため、その日から子どもを連れて一緒にジョギングを始めました。仕事終わりに40~50分ほど、16000歩の3分の1にも満たない量ですが、雨の日でも傘をさして歩いたり、階段を上り下りしたりと、毎日少しでも身体を動かすようにしています。
なんとか続けられているのは、身体あってこそ考えることができるのだと、自分でもよく実感できるからです。定期的に運動している人はご存じでしょうが、適度に走ったあとや泳いだあとは、沈んだ気持ちがすーっと軽くなり、眠りも深くなります。結果的に頭を使う仕事の質が上がります。脳もまた身体の一部なのです。

子どもたちの身体のことを忘れていませんか?

身体はふだん何も言わず動いてくれるため、私たちはついつい身体を機械のようなものと考えがちです。しかし、人間は身体含めた全身で何かを感じ、考えることができていることをもっと意識しなくてはなりません。オンライン学習自体をすべて否定するわけではありませんが、それらが身体にかけている多大な負担についてはよく考慮すべきでしょう。
コロナ禍の中で移動することが激減し、街中ではジョギングする人を多く見かけるようになりました。仕事始めにビデオ会議システムを使ってラジオ体操することを習慣にしている人もたくさんいます。大人たちはそうして自律的な取り組みを始めたりもできますが、子どもたちはなかなか自分自身で不調の原因を意識することはできないものです。もしお子さまが、以前よりも集中できなくなっているとすれば、適切に体を動かせていないストレスも大きいのかもしれません。

不安になりすぎて心身の健康を害してしまえば元も子もない

感染防止のためのキャッチフレーズだった「ステイホーム」は、いつのまにか手段と目的が入れ替わり、「家にいなければならない」と解釈されるようになっていきました。もちろん感染症を予防することは大切なことです。しかし、用心しすぎて心身の健康を害してしまえば元も子もありません。専門家たちは、子ども向けの施設の閉鎖が子どもの心身を脅かしており、「こと小児に関してはCOVID-19の直接の影響よりも、それに関連した健康被害のほうが問題だ」と、はっきり意見表明しています(注5)。
現代の社会では、とにかく身体活動は削られる一方で、一部の人の愛好的なことと捉えられがちです。これからスポーツクラブも再開され、外遊びも解禁されていくと思いますが、子どもたちが公園や校庭などで身体をたっぷり動かすのは、発育や健康保持のために必要不可欠なものなのだ、と親を含めて社会全体の人々が理解することが大事でしょう。

参考文献
注1)血中ビタミンD濃度の低下で近視リスクが増加
https://www.carenet.com/news/general/carenet/46462

注2)塙佐敏 歩数を基にした子どもの適切な身体活動量の検討—可変要因(運動習慣,生活習慣)や不変要因(季節)と歩数との関連から 発育発達研究 第54号 2011
https://www.jstage.jst.go.jp/article/hatsuhatsu/2011/54/2011_54_1/_pdf

注3) 「人体600万年史-科学が明かす進化・健康・疾病」ダニエル・<E>・リーバーマン(著)塩原通緒(訳)早川書房 2017

注4)「サピエンス異変——新たな時代『人新世』の衝撃」ヴァイバー・クリガン=リード(著)水谷淳 、鍛原多惠子(訳)飛鳥新社 2018

注5)小児の新型コロナウイルス感染症に関する医学的知見の現状
https://www.covid19-jma-medical-expert-meeting.jp/topic/1235

プロフィール


上平崇仁

1972年鹿児島県阿久根市生まれ。筑波大大学院芸術研究科修了。コペンハーゲンIT大学客員研究員等を経て、現在は専修大学ネットワーク情報学部教授。社会人向けデザインスクールでも教鞭をとる。専門は協働デザイン、情報デザインなど。著書に「情報デザインの教室」等(丸善出版)。

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