これからの学びのカギ「探究」とは?
高校では、2022年度から新しい学習指導要領がスタートし、『総合的な学習の時間』が、『総合的な探究の時間』という科目に変わります。すでに先行実施している高校も多い、この『総合的な探究の時間』。どんなことを学ぶ科目なのでしょうか? 高校向け学習用教材『探究ナビ』を開発している、ベネッセコーポレーションの川﨑要蔵に聞きました。
自分で興味のある課題を見つけ、とことん「探究」する
『総合的な探究の時間』とはどんな科目なのか、ピンとこない方が少なくないかもしれません。じつは、各教科・科目の知識を総合的に活用しながら、課題についてリサーチし、まとめたり発表したりしていくところは、これまでの『総合的な学習の時間』とほぼ変わりません。では、“学習”が“探究”になることで何が変わるのかというと、「①課題の発見→②情報収集→③整理・分析→④まとめ・表現」というプロセスが明確に示されたこと。特に、生徒が自分の興味・関心に合わせて課題を見つけていくことが、キーとなるということです。
ここで、高校生が実際に取り組んだテーマをいくつかご紹介すると…。
●納豆の可能性~納豆に浄水機能はどこまであるのか?
●なんでこんなに毎日コンビニに寄ってしまうのか?
●お肉はなぜおいしいと感じるのか?
●どのような折り方と素材の紙飛行機がよく飛ぶのか
●笑う頻度、年齢、幸せ度に関係性はあるのか?
●睡魔に打ち勝つ方法
いかがですか? どれも個性的で、楽しそうではありませんか? そうなんです。「やりたい」と思う課題に取り組むことで、活動が“自分ごと”になり、主体的な活動になっていきます。アンケートをとって統計学的に分析したり、地元の歴史を調べたり、グラフや文章で表現したり…。活動しながらどんどん知識を深め、考えていく力を身に着けていくのももちろん、そこから「この学問を学んでみたい」といった発見にもつながっていきます。事実、「本当に興味のあることがわかった」という高校生の声をよく耳にするのですが、そういった発見が、大学での学びや将来の仕事などに結びついていくことにもなります。
新しい課題であふれるこれからの時代に欠かせない探究力
でも今、なぜ探究なのか。そこには、社会の変化が大きく関係しています。この20年間だけでも、電子マネーで買い物ができるようになったり、ロボット掃除機が一般化したり、国際化が進んだりと、社会はすごいスピードで変化しています。変化のスピードはますます加速し、高校生が社会で活躍する頃には、誰も解決したことがない新しい課題であふれているだろうと言われています。そのような社会を生き抜くために欠かせないのが、自ら課題を見つけて情報を選び取り、知識を活用し、他者と協働しながら解決していく力。その力をつけていくのが、“探究”だと考えられているのです。
そのため新しい学習指導要領には、『古典探究』『日本史探究』『理数探究』など、ほかにも“探究”がつく科目が多く並んでいます。それだけ“探究”は、これからの学びに欠かせないキーワードなのです。
失敗を恐れず、まずは素朴な疑問から
探究学習を深めていくために、どんな学び方をしていくのでしょうか?高校1年生の時にまず身近な「地域」などをテーマにグループで活動し、高校2年生で「社会問題」などにテーマを広げて個々に活動するなど、ステップを踏んで進めていくのが一般的。つまり、「①課題の発見→②情報収集→③整理・分析→④まとめ・表現」という基本プロセスに沿って、くり返し活動していきます。その中で生徒は、課題への立ち向かい方を身に着けたり、本当に興味のあることから自分のキャリアの方向性を見つけたり、資質を伸ばしたりしていくわけです。
そこで大事だとされているのが、振り返りです。というのも、社会に出たら成功だけでなく、失敗ももちろんありますし、失敗したからこそ、そこから学びを得たり、その経験をもとに成長することも多いと思います。この『総合的な探究の時間』こそ、失敗やそこから得た気づきをきっかけに、次の学びにつなげていける貴重な機会なんです。
ただし、自分で考えたり、先生から的確なアドバイスをもらったりすることだけが、振り返りではありません。生徒の数だけテーマが存在するため、同級生の発表を聞いたり、意見交換したりすることでも、気づけることがいっぱいあります。だから失敗を恐れずに課題に取り組み、煮詰まってしまったら立ち止まってもう1回戻って考え、周りの声なども参考しながら、修正したりやり直したりする。それを諦めずにゴールを目指して続けていくことこそが、これからの社会を生き抜く大きな力につながっていくと思います。
そして、もう一つ。探究をより良いものにしようと、つい壮大なテーマを考えてしまいがちですが、難しいことを考える必要はありません。小さな「なぜ?」が、探究を繰り返すうちに自分だけの深いテーマにつながるものです。ですから「自分は何が好きなんだろう」と考えたり、日常の素朴な疑問を大事にしたりすることも、成長につながる探究学習をする秘訣の一つだと思います。