伝える力を高める「やさしい日本語」

外国人観光客や、日本に住む外国人が増える中、外国人にもわかりやすい日本語で情報を提供することが求められています。そのヒントになるのが、「やさしい日本語」です。平易な書き方や話し方は、外国人に限らず、さまざまな人とのコミュニケーションに役立つ、ユニバーサルな側面を持っています。

災害時の情報提供がきっかけ

国際社会がグローバル化するのに伴い、訪日する外国人や日本に住む外国人は増えています。法務省によると、2018年に日本に入国した外国人の数は約3,010万人で、過去最高となりました。日本に住んでいる外国人の数は、18年末で約273万人と、前年に比べて約17万人増加し、こちらも過去最高となっています。いずれも国別に見ると韓国・中国・台湾・マレーシア・フィリピンなどのアジア諸国が多くなっています。

外国人が日本で過ごしやすくするためには、それぞれの国の言葉で情報提供をするのが理想です。道路や施設の案内板が、英語や中国語、韓国語など多言語で表示されるようになったのを見たことがある人も多いでしょう。しかし、あらゆる国の言葉で案内を作るのは現実的とは言えませんし、英語や中国語がわからない外国人もいます。そこで、注目を集めているのが、よりわかりやすい日本語で話したり書いたりする「やさしい日本語」という考え方です。もともとは1995年1月の阪神・淡路大震災をきっかけに、災害時に日本にいる外国人にも情報提供ができるようにと考案されました。

やさしい日本語を作るポイントは、▽外来語や専門用語、敬語は避けて、簡単な語に言い換える▽一文を短くする▽漢字にはルビを振る……などがあります。「余震に対して十分に注意してください」は、「余(よ)震(しん)<後(あと)で 来(く)る 地(じ)震(しん)>に 気(き)をつけて ください」のように書いたり、話したりすれば、外国人にも伝わりやすく、適切な避難行動を取ることができます。

子どもやお年寄りとの会話にも

災害時の情報発信を機に、自治体などの公的機関で、手続き文書を作成する際の配慮として「やさしい日本語」の観点を取り入れるところが増えています。「やさしい日本語」での公文書書き換えのガイドラインを設けたり、講座を開いて市民に普及させたりしようという団体も出てきています。

外国人にとってわかりやすい日本語は、実は子どもや高齢者、障害者など、日本語を母語とする人の間でも理解されやすい「ユニバーサル」な側面を持っています。やさしい日本語で作成されたNHKのウェブサイトニュース「NEWS WEB EASY」は、外国人だけでなく、小中学生にも理解しやすいように、とうたっています。

子どもの理解度に合った話し方を自然に身に付けている学校の先生も、また、家庭で子どもと会話する保護者も、あらためて「伝わっているか」を確認するヒントを発見できるかもしれません。

(筆者:長尾康子)

※ 東京都オリンピック・パラリンピック準備局 2020年オリンピック・パラリンピック大会に向けた 多言語対応協議会ポータルサイト
https://www.2020games.metro.tokyo.lg.jp/multilingual/references/easyjpn.html

※NHK NEWS WEB EASY
https://www3.nhk.or.jp/news/easy/

プロフィール


長尾康子

東京生まれ。1995年中央大学文学研究科修了。大手学習塾で保育雑誌の編集者、教育専門紙「日本教育新聞」記者を経て、2001年よりフリー。教育系サイト、教師用雑誌を中心にした記事執筆、書籍編集を手がける。

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