これからの社会を生き抜く「考える力」をどう育てる?

2020年4月から実施される新学習指導要領では、「知識・技能」の習得だけでなく、それらを使って主体的に考え、よりよい答えを求めていく「資質・能力」の育成に重点がおかれています。これを受け、中学入試や高校入試でも、身近な生活や社会問題を題材とした問題が増えています。

では、社会と向き合い、考える力を育むために大切なことは何でしょうか。
筑波大学附属小学校教諭で「小学校社会科授業づくり研究会」メンバーであり、『子ども教養図鑑 世の中のしくみ』(誠文堂新光社)の編集を担当した粕谷昌良先生に伺いました。

そもそも社会科を学ぶ目的とは?

これまで社会科は「暗記科目」と捉えられがちでした。しかし、近年はインターネットなどの発達によって、誰でも必要な知識や情報を手に入れることができるようになりました。以前に比べ、覚えている知識量の多少はそれほど重要ではなくなってきているのではないでしょうか。一方で、変化の多いこれからの社会において、知識をもとにしながら、どのように考え、判断して、行動していくかということがますます重要になってきます。

社会科という教科が誕生してから70年余り経ちましたが、社会科の目標は「社会認識を通して、公民(市民)としての資質の基礎を育成する」ことに変わりはありません。簡単にいえば、「社会のしくみがわかる」こと、そして「進んで社会に関わろうとする気持ちと力を育てる」ことが、社会科の目標なのです。

「多角的に考える」力を育む、客観・実感・共感

社会生活を営んでいく上で、様々な社会事象に出会います。世の中のしくみといっても良いでしょう。世の中のしくみを学んでいくと、大人でも判断に迷う事例がたくさん出てきます。たとえば「消費税は上げたほうがいいのか」「野生動物と人間はどうやって共存するのか」などです。自分にとって、そして社会にとってどのように判断したらよいのかは、大人でも正解を出すことが難しい問題です。

今回作成した『世の中のしくみ』は、政治、経済、環境、国際などの分野から全部で50の社会問題を取り上げた、新しいタイプの図鑑です。すべての問題について「2つの立場から考える」ことがポイントで、「きみはどっちを選ぶ?」と問いかけています。このような構成にした理由は、「答え」を教えるのではなく、「多角的に考える」力を育んでいただきたいと考えたためです。

多角的に考える力を育てるためには、「客観」「実感」「共感」のバランスが大切です。まず、具体的な数値や事実など、客観的な資料を提示すること。そして、子どもたちの実感的な理解につながる体験や、どの立場にも「その気持ちはわかるな」と共感できるような資料を用意するようにしています。「客観」ばかりでは「ひとごと」になり、「共感」が前に出過ぎては一方的な見方につながりかねません。

「小学校社会科授業づくり研究会」では、客観・実感・共感を大切に、2つの立場から社会について考える授業づくりをしてきました。私はこれを「アナザーストーリーの社会科授業」と呼んでいます。『世の中のしくみ』は、授業の構成を紙面上で再現しています。

「東京駅で東京土産を選ぶなら?」2つのストーリーから見えてくること

ここで、本とは少し離れますが、「お土産」という身近なものを題材とした4年生の授業をご紹介します。保護者のかたもぜひ一緒に考えてみてください。
「東京駅で地方へのお土産を買うなら、何を選びますか?」

授業では、子どもたちに実際に東京駅に行って東京土産を1つ選んできてもらい、皆で交換して食べました。選んだ理由は「おいしそうで、パッケージに東京駅が描いてあるから」「東京駅限定だから」などさまざまでした。

子供たちが様々な東京土産に出会った後に、私は青森土産として、東京のコンビニでも売っているチョコレート菓子を子供たちに買ってきました。すると子供たちは、「これはどこにでも売ってる!」「りんご入りなら許せるけど」などと納得のいかない様子でした。
そこで、皆に「お土産とは何か」と子供たちに問いました。お土産について考えてもらうためです。
子供たちは辞書で調べたり、東京駅でのお土産購入体験を通して「その土地をアピールするもの」「その土地の産物を使ったもの」などをお土産の条件としました。ところが、子供たちが東京駅で選んだお土産の中には、東京の産物を使ったものはひとつもありませんでした。東京は第一次産業が盛んとは言えませんので、仕方のないことなのかもしれません。するとある児童が「それなら、東京の職人技も東京らしさではないか」という意見を出しました。そこで、次の授業では、都内の老舗人形焼き屋さんへ取材に行きました。

対面販売へのこだわりや、人形焼きの顔は七福神が由来であること、戦時中には金型を土に埋めて守ったというご主人の話を子どもたちは夢中で聞き、感想もぎっしりノートに書いて帰ってきました。取材後は全員が「東京土産には人形焼きがふさわしい!」という意見でした。

人形焼きは素晴らしい東京土産だと思いますが、これでは、子供たちが一面的な見方しかできていないことになります。ここで私は、東京土産の人気ランキングで圧倒的な1位であるバナナを使ったA社のお菓子を紹介しました。1日の売り上げ個数は人形焼きとは比較にならないほど多く、知名度も抜群でした。その事実を示すと子どもたちは驚きましたが、「こんなのはふさわしくない!」という反対の声もあがりました。子供たちは人形焼きこそ東京土産にふさわしいと追究していったので当然の反応ですね。

しかし、A社についてもじっくり調べていきました。A社では、生地を優しく扱えるロボットを導入し、無人のフルオートメーションによる安全・衛生管理が徹底されています。バナナを使っているのも、特産農産物が少なく、世界につながる東京だからこその選択だそうです。「安心・安全こそがお客様のためだと考えています」とA社の方はこだわりを話してくださいました。

子どもたちは人形焼き屋さんとはまったく異なる価値観で作られたお土産に触れてこれまでの認識を揺さぶられ、「お土産とは何か」「東京らしさとは何か」考えを深めていきました。伝統と人情の人形焼きと、最新技術と安心安全を考えたA社のお菓子。子供たちはそれぞれの良さをまとめるとともに、最後には「最新技術を使うことにも東京らしさがある」「いっそ両方買って、《昔土産》と《今土産》にしたら」などさまざまな意見が出ました。さらに、全国各地には、人形焼きのようにその土地の風土を含んだお土産が多いのにも関わらず、東京では伝統や風土がなくても「東京」の名を冠した商品がヒットしてしまう理由から、「東京」という都会のイメージや、最先端の街という他の地域にはない東京の特殊性が人々を惹きつけていることにも気づいていきました。

「お土産」を題材に、「私たちの地域の特性」という大きなテーマについて、子どもたちはさまざまな視点を育てていったのです。

価値観の対立の中で「最適解」を目指す力を

このように、異なる価値観を含む2つのストーリーを提示することで、子どもたちは揺さぶられ、悩みます。「どちらにも共感できる」からこそ迷うのです。そんな中で、子どもたちは、社会的な問題は簡単に答えが出せないものが多いことに気づいていきます。つまり、社会科で大切なのは計算問題のように「速く答えを出す力」ではなく、互いの立場を理解し、根気よく話し合って「最適解」や「納得解」を目指す力といえます。

このような力を育てるため、ぜひおうちでも身近な問題やニュースについて話題にし、お子さまと一緒に考えてみていただきたいと思います。『世の中のしくみ』でも、価値観の対立を含むさまざまな問題を取り上げていますので、ぜひ社会について考えるきっかけとして役立てていただければ幸いです。

***書籍紹介***


プロフィール

粕谷昌良

筑波大学附属小学校教諭。日本社会科教育学会員。2020年1月より、小学校社会科授業づくり研究会代表。

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