専門家の力、学校で生かすには

学校には教職員の他に、スクールカウンセラー(SC)やスクールソーシャルワーカー(SSW)と呼ばれる専門職が働いています。子どもたちのさまざまな悩みや困難な状況をいち早く見つけ、支援につなげるために、その重要性はますます高まっています。しかし、校内で力を発揮できるような体制は整っているのでしょうか。

不登校、いじめ、虐待…高まるニーズ

不登校やいじめ、虐待や貧困など、困難を抱えている子どもたちに対して、心理面や環境面からサポートをするのが、SCやSSWです。SCは心理の専門家で、子どもや保護者からの相談に応じたり、教職員への助言をしたりします。臨床心理士や公認心理師などの資格を持つ人が務めます。SSWは、子どもたちの置かれている環境に働きかけて,状況を改善する役割を担います。学校と関係機関や制度をつなぐソーシャルワークが主な仕事で、社会福祉士や精神保健福祉士の有資格者、または過去に教育や福祉の分野で活動実績がある人がSSWを務めています。

SCやSSWのニーズは、高まる一方です。先日発表された文部科学省の調べでは、いじめの認知件数は小中高校合わせて54万件を超え、不登校の子どもは小中学校で16万4,528人と、いずれも前年を上回っています。また、自殺した小中高校生は332人と、1988年度以降最多となりました。都道府県や政令市教育委員会が所管する教育相談機関に寄せられた相談件数も25万5,404件と、昨年度の19万9,293件を大きく上回っている状況です。

「チーム学校」で動ける体制を

国では、自治体に補助金を出してSCやSSWの配置を推進しています。拠点校を中心に同じ学区内の学校を担当する形や、教育委員会に配置して域内の学校を巡回する形などがありますが、SCが常駐している公立小中高校は合わせて全体の0.4%に過ぎず、年間1日~34日の活動日数の学校が56.5%、年間35日~69日の活動日数の学校が24.4%、配置実績がない年間0日の学校も14.5%ありました。SSWについては、常駐0.6%、年間1日~41日の活動日数の学校48.2%、配置実績がない学校39.9%と、遅れが目立ちます。

不登校の子どもの支援を推進するため、2017年に「教育機会確保法」が施行されましたが、その施行状況を検討する会議では、SCとSSWの配置を推進し、さまざまな課題の未然防止・早期発見、迅速・的確な対応に向けた相談体制を充実させ、多様で適切な教育機会の場を確保することが重要だと指摘されています。

SCやSSWは、人数を増やすことも大切ですが、限られた派遣や巡回の日数の中で、専門職としての力が十分に発揮できるように、学校が「チーム」として機能しているかも問われます。今の学校にはSCやSSWの他に、特別支援教育の支援員や、学習支援のためのスタッフ、外国語活動や総合的な学習の時間のサポートに入るボランティアなど、さまざまな人材が集まっています。また、現在、議論が進んでいる夜間中学の教育活動の充実やフリースクールなど、学校外の学びの場と連携するためにも、SCやSSWの重要性が指摘されているところです。

中央教育審議会の初等中等教育分科会の中には、「今後は、専門家をつなぎ一元化するシステムや、校内スタッフをつなぐスクール・マネジャーが学校に必要。そうでないと専門性が生かせない」と危機感を示す委員もいます。先生には話せないことを相談できるSCやSSWの「第三者性」を尊重しつつ、子ども一人ひとりの状況に応じた支援をするためにも、風通しのよい学校づくりが求められます。

(筆者:長尾康子)

※ 文科省 2018年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/31/10/1422020.htm

※ 文科省 義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律の施行状況に関する議論のとりまとめ
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1418510.htm

プロフィール


長尾康子

東京生まれ。1995年中央大学文学研究科修了。大手学習塾で保育雑誌の編集者、教育専門紙「日本教育新聞」記者を経て、2001年よりフリー。教育系サイト、教師用雑誌を中心にした記事執筆、書籍編集を手がける。

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