先生にも必要な「データを読む力」
最近、「エビデンスに基づく教育を」というフレーズを見聞きする機会が増えてきました。エビデンスは医療やビジネス、政策立案の分野でも使われるなど、社会的な認知が広がっています。
その意味を正しく知り、科学的な根拠としてデータを読み解く力も、これからの先生には求められそうです。
業界により意味が違う?
エビデンスは一般的に、英語のevidenceを訳して「根拠」「証拠」といった意味があります。しかし業界によって、指す内容やニュアンスが違います。
ビジネスの世界でエビデンスといえば、提案資料や金額交渉の見積書、契約書、会議の議事録など、顧客との間のトラブル防止のために「証拠」として残しておくべき書面やデータなどを指すことが多いようです。
医療の世界では、医師や患者が治療方針を決める時の情報の信頼性を示す意味で、エビデンスが用いられます。英国のオックスフォード大学EBMセンター(Oxford Centre for Evidence-based Medicine)では、エビデンスのレベルを提唱しています。質の高い研究方法で得られた安定的な情報から、長期にわたる追跡研究、個別のケース研究、経験談や個人の意見までその「質」をレベル分けしていて、上位のエビデンスを用いることが理想とされています。
教育の世界では、ある施策や実践の有効性を裏付ける、科学的・客観的なデータがエビデンスと言えます。ごく単純化して言えば「毎日宿題を出した方が効果的な取り組み」かどうかを裏付ける、客観的なデータを意味します。
本来は質の高さも必須
国や自治体でも、エビデンスに基づいた教育政策を立案していく方向性が、政府の第3期教育振興基本計画に盛り込まれています。限られた財源を有効に配分し、国民に対する説明責任を果たしながら、政策を適切に評価するために、EBPM(Evidence Based Policy Making=証拠に基づく政策立案)と呼ばれる考え方を、政府全体が推進しているためです。
この夏に行われた、全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の結果についての説明会や、教員養成に関する文部科学省の事業報告会では、学校関係者が統計資料を読み解くことや、やったことの報告にとどまらない報告書の作成を求めるなど、「エビデンス重視」の方向にかじを切っています。
ただ、日本の教育の世界ではエビデンスという言葉はまだまだ聞きなれない言葉で、エビデンスが何を指すのか、学校の先生がイメージするものから大学の研究者がイメージするものまで、まちまちです。
医療のエビデンスに倣えば、学校個別の実践や個人の意見、学校の前例で行われる取り組み、アンケートの単純集計などは、エビデンスとして質が高いとは言えません。質の高いエビデンスを得るには、広範な比較実験や長期の追跡研究などが必要ですが、こうした研究の方法も、まだ学校現場には一般的ではないでしょう。
「エビデンスに基づいた教育を」の前に、「エビデンスとは何か」「エビデンスに基づく教育とは何か」の具体的な情報提供が必要とされています。
(筆者:長尾康子)
※第3期教育振興基本計画
http://www.mext.go.jp/a_menu/keikaku/detail/1406127.htm