小中学生の思考力を育むには
小学校では2020年から、中学校では2021年から新学習指導要領(以下、新指導要領)が全面実施されます。新指導要領では、すべての教科等が次に挙げる「3つの柱」で再整理されたことが大きな特徴です。
1.知識及び技能 2.思考力、判断力、表現力 3.学びに向かう力、人間性等
思考力、判断力、表現力は、現行の学習指導要領でも育むべき「学力の重要な3つの要素」の一つとして取り上げられていますが、今回はとりわけ「何ができるようになるか」という資質・能力の確実な育成が重視されたことがポイントです。では思考力を身に付けるとは、何ができるようになることでしょうか?それを育むにはどうすれば良いでしょうか?
思考とは何か、具体的な行動レベルで捉える
思考とは抽象的な概念で大人にも分かりにくいものですが、子どもにはなおさらでしょう。「考えよう」と言っても何を考えたらよいのか子どもにはわからないのが実際のところです。しかし実は思考力も、語彙力や計算力のように教え・伸ばすことのできる「認知スキル」と捉えることができます。例えば計算力という認知スキルが、足し算をする力+引き算をする力+掛け算…という「サブスキル」で構成されているのと同様に、思考力も具体的な行動レベルに落とし込んで定義することができます。
(例えば批判的思考力についての一つの定義はこちら
https://berd.benesse.jp/assessment/opinion/index2.php?id=4718)
思考力の発揮が求められる一つとして「論理的に分かりやすく書く」を考えてみましょう。では「論理性/分かりやすい」とはなんでしょうか。これを分解してみると…
・何についての話か(課題)、それに対する主張は何か、その根拠は何かがはっきり書かれている事
・課題-主張-根拠が内容的にズレていない事
・言葉の定義が明確で、一貫している事
・信頼できる根拠を用いている事(信頼性の観点はさらに細分化できます)
等の観点が挙げられます。これらが思考力を構成するスキル(の一部)であり、これらの観点を意識して書くことが「考えて書く」ことです。
教える側に求められるのは、このように具体的に子どもにも分かるレベルでやるべきことを示し、それがすなわち考える事であると教えていくことです。そうすれば子ども自身も、漠然と「思考力」ではなく一つ一つのスキルが身についたか主体的に振り返りながら学習を進めることができます。
個別具体的な文脈からは一歩引いたレベルで捉え、繰り返しと振り返りを促す
前述の「課題-主張-根拠が内容的にズレていない事」について例を見てみましょう。子どもが以下のような文章を書いたとします。
私たちの街を住みやすくするため、私たちにできることは何でしょうか。それは、ゴミ拾いをすすんですることだと思います。なぜならそれは良い事だからです。
これに対しては「「良い事だから」は、「住みやすくする」ことの理由にならないんじゃないかな」など、取り組んでいる問題の文脈上で指導をすることが可能です。その際には、「課題と理由は内容的に合うようにしよう」と場面・文脈から一歩引いたレベルで解説を加えることが重要です。思考力は場面・文脈を超えて求められますから、一歩引いたレベルで捉えておけば別の場面・文脈での学習も全く違う学習ではなく繰り返し学習になりえます。そしてその度に「課題と理由が内容的にズレない」ことができたかどうか、などと子どもが振り返る観点にもなります。繰り返しと振り返りが学習において重要であることは言うまでもありません。
メタレベルで捉えておくもう一つのメリットとして、いろいろな場面・文脈で自覚的にスキルを使うことを通して「スキルはさまざまな場面・文脈で発揮できるものである」という認識をもたらすことが挙げられます。そのような認識があれば、それまで経験のない場面に直面した際にも、身についているスキルで対応できるようになります。異なる場面でスキルを発揮することを「(スキルの)転移」と言い、その転移の幅が広がっていくことが思考力の熟達であると考えられています。
「考える」を曖昧にせず、かつ個別具体的な文脈からは一歩引いた俯瞰したレベルで捉える。それにより繰り返しと振り返りを促し、思考力を育成する。これをすべての思考力で実践するのは難しいことですが、できるところから少しずつ取り組んでみてください。そうやって改めて思考力について考えてみると、自分自身の捉え方もぼんやりしていたことに気が付くでしょう。それが思考力を育むスタートです。