思考力を育てる授業例を国が提案

 国立教育政策研究所は、全国学力・学習状況調査の結果を踏まえて「授業アイディア例」を公表しました。子どもたちのつまずきの状況を把握し、その解決を図るために、授業改善の方向性を示したものです。学校や教育委員会が参考にするために配布しているものですが、ネット上でも公開されています。これからの授業がどのように変わっていくかを知る上で参考になるでしょう。

2学期以降すぐ役立つように

 同研究所は文部科学省に付属する研究機関で、教育政策に関するプロジェクトや調査研究を行っています。代表的なものが全国学力・学習状況調査で、小学6年生と中学3年生を対象にした学力調査を毎年行っています。
 その結果は夏に報告され、子どもたちがつまずきやすい課題や授業で、どのような教え方をしたらよいのかを解説する説明会を実施しています。2学期以降の授業にすぐにでも役立ててもらおうというわけです。

 調査結果では、小学校の国語において「話すこと・聞くこと」の分野で「話し手の意図を捉えながら聞き、自分の意見と比べるなどして考えをまとめることに課題がある」としています。これはいわゆる「B問題」といわれる知識活用型の出題で、ここでの課題を克服するには「メモを取りながら聞くことができるようにする」「考えのまとめ方を具体的に理解できるようにする」などのポイントを挙げています。

メモの取らせ方など具体的に例示

 しかし、ポイントを指摘するだけでは、学校現場は「どのような授業にすればよいのか」イメージが持ちにくいものです。2学期からすぐに授業を変えていくには、効果的なメモの取らせ方や、考えをまとめさせる段取りなど、学校の先生に「授業の進め方の例」を示す必要があります。

 そこで作成されるのが「授業アイディア例」です。先ほどの「メモを取りながら聞くことができるようにする」の指導例として、付箋(ふせん)を使ったメモの例が出ています。「生活の中で使っている言葉はみだれているか」をテーマに友達3人が話し合うのを聞き、それぞれの意見を色別の付箋にわけて取り出していく、という活動例です。

 しかも、メモをする時は「〇〇さんの立場」「理由」「例」など、何をメモするかまで例示されています。子どもたちが「自分は〇〇さんと意見が逆だ」「〇〇さんの理由は資料に基づいているものなのだな」などと気づけるようにする授業の進め方を示しています。
 小学校ではその他に、国語で3、算数3、理科5の計12例を紹介。中学校では国語3、数学3、理科4の計10例を紹介しています。
 同研究所は、このアイディア例を▽各学校や各教育委員会での研修に活用する▽小6、中3だけでなく、学校全体、校種を通じて活用し改善を図る▽国語、算数・数学、理科だけでなく他の教科等で活用する……などとアドバイスしています。

 今年度の報告書・調査結果資料は、例年より1カ月前倒しして、7月末に公表されました。教育委員会向けの説明会も8月中に終了しています。多忙な先生こそ、このアイディア例をすぐにでもまねしてほしい、ということでしょう。
 子どもたちの学習のつまずきを見つけ、学校の授業をよくしていこうという地道な取り組みが毎年、淡々と行われていることも覚えておきたいものです。

(筆者:長尾康子)

全国学力・学習状況調査 授業アイディア例
http://www.nier.go.jp/jugyourei/

平成30年度 全国学力・学習状況調査 報告書・調査結果資料
http://www.nier.go.jp/kaihatsu/zenkokugakuryoku.html

プロフィール


長尾康子

東京生まれ。1995年中央大学文学研究科修了。大手学習塾で保育雑誌の編集者、教育専門紙「日本教育新聞」記者を経て、2001年よりフリー。教育系サイト、教師用雑誌を中心にした記事執筆、書籍編集を手がける。

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