「問いを立てる」ことから始まる大学選び 新学習指導要領
高等学校の教育が、いま大きく変わろうとしています。
これからの進路選択と高校での学びについて、新学習指導要領作成の中核的メンバーであり、教育改革全体の流れ・これからの道筋を詳細に解説した『「資質・能力」と学びのメカニズム』(東洋館出版社)の著者でもある奈須正裕先生にうかがいました。
「1点を争う」入試から「相談する」入試へ
今後、大学入試は欧米のようにAO入試が主流になる見通しです。私立大学では、すでにAO入試等のいわゆる「秋入試」での入学者が、定員の50%に迫る勢いで増えています。
AO入試は、「大学で何を学びたいか」「そのテーマのためにどんな準備をしてきたか、どんな見通しを持っているか」「そのテーマをどのように表現できるか」等について、面接や小論文、集団討議や実験・実習の様子を見るなど、多様な方法で生徒の資質・能力をみていく入試です。いわば、生徒のやりたいことや適性とその大学・学部が合うかどうか「相談していく」入試なんですね。
現在、センター試験に代わる「大学入学共通テスト」の内容が話題となっていますが、ゆくゆくはこのテストが、アメリカの「SAT」にように、AO入試において、学力を担保する資格試験のように使われる可能性が高いと思います。SATは、AO入試を受ける際の資格として一定以上のスコアがあればよく、「1点でも高く」取る必要はありません。「大学入学共通テスト」がどのような使い方をされるかは未定ですが、1点を争うような入試は減っていくと考えられます。
求められるのは、自ら問いを立て、解決法を見いだす力
大学入試の風土が変わりつつあると同時に、高校での学びも変化してきています。
今回の学習指導要領改訂の前提として、工業、農業、商業などの実業系高校やSSH(スーパーサイエンスハイスクール)、SGH(スーパーグローバルハイスクール)での成果がありました。
実業高校では、3年間の学びの総まとめとして、現実の職業に関わる問題について体当たりで研究し、解決策についてまとめる「課題研究」が行われています。実業高校から大学の工学部や農学部、経営学部などに推薦入学した生徒の活躍ぶりについては、私自身にも数々の経験がありますがが、教育関係者の間で以前から話題となっていました。
また、SGHでは、文化的背景の異なる人と交流しながら、身近な地域社会や国際的な問題に切り込んでいくような「探究」的取り組みがなされ、大きな成果をあげています。
SGHの生徒や先生にお話を聞くと、現実の問題を自分ごととして引き受け、様々な人と対話しながら解決法を発見していく面白さややりがいを、熱く語ってくれます。「現実の問題に取り組むほど、教科をちゃんとやることが大事になる」といった生徒の声も印象的でした。
このような「探究」的な取り組みを行っている高校ほど、大学のAO・推薦入試で高い成果をあげる傾向がありますが、それも当然のことといえます。これからは、自分で問いを立て、周囲の人と協働しながら答えを発見していく力が、ますます大切になってくるでしょう。
「ブランド」ではなく 「やりたいこと」から考える大学選びを
ご家庭では、ぜひお子さまと「広い意味での進路」について話し合う機会をもっていただきたいと思います。
「どこの大学なら受かるか」ではなくて、どんな学部・学科に行って何をしたいかという見通しについて話し合うことが大事です。進路は早く決めれば良いというものではなく、先々の出会いによって変わることも大いにあり得ます。しかしそれも、一度暫定的にでも決めたからこと起こり得ることです。つまり、自分の将来について、一度しっかり考えてみることが大切なのです。よく考えずにあちこちの大学を受けて「受かったところに行く」というのでは、先の見通しがもてず、学習意欲も持続しないと思います。「有名だから」「難関だから」と、大学をブランドで選んだり、お子さまに勧めるのもよくありません。
また、大学のオープンキャンパスは、ぜひお子さまと一緒に行っていただきたいですね。現場を訪れ、そこに通う大学生と会うことでやりたいことも具体的になります。また、親子で大学の見方も異なると思います。お子さまと保護者のかたの見方が違うとすれば、それは互いが進学に求めていることが違うということです。互いに感じたことをていねいに話し合ってみてください。大学はいわばお子さまの一生を左右する「商品」ですから、質を見極めながら慎重に選ぶことが大切だと思います。