高校が大きく変わる!その背景と方向性は? 新学習指導要領

高等学校の教育が、いま大きく変わろうとしています。高等学校で2019年から先行実施、2022年から年次進行で実施予定の新学習指導要領では、教科目の編成も見直されており、これまでにない大改訂だといいます。
改訂と大学入試改革の関係、改訂のキーワードである「探究」について、新学習指導要領作成の中核的メンバーである奈須正裕先生にうかがいました。

大改訂の背景—前回改訂の積み残しと世界的な「学力論」の潮流

今回の学習指導要領改訂によって、いちばん大きく変わるのは高等学校教育です。そこにはいくつか理由があります。

まず、前回改訂(小・中学校は平成20年、高等学校は21年改訂)時の「積み残し」の問題があります。前回は義務教育段階の「学力低下」への懸念が問題となり、小・中学校の学習内容をかなり大きく変更しました。その結果、高等学校については、教科目の見直しや再編成にまで踏み込むには十分な時間が取れなかったという事情がありました。つまり今回改訂は、高等学校に関しては「20年分を一気にやる」ということになります。

また、知識・技能を持つだけでなく、それらを自分らしく使いこなす「資質・能力」の育成が、今回の改訂の大きなテーマです。世界的に見ても、学力論は「資質・能力」ベースが主流で、OECD(経済協力開発機構)加盟国を中心に実施される学力調査「PISA」なども資質・能力を問うものとなっています。ところが、日本の高等学校教育は知識の習得や理解に終始しがちだという指摘が以前からありました。

さらに、高校教育の先には大学進学や就職があり、実社会に出ていく前の「仕上げ」の段階といえます。高校生の学力は、日本の科学技術力や経済力にも直接結びついてきますから、高校教育こそ、世界的な学力論のトレンドを最も強く意識すべき段階とも考えられます。にもかかわらず、高校教育がなかなか変わらなかったのは、これまで大学入試問題に、要素的な知識の量を問うものが多かったという事情があります。
現在、その大学入試のあり方を見直す「高大接続改革」が進められていますが、この動きも高等学校教育が大きく変わることを強力に後押ししています。

自分で問いを立て、最適な答えを探す「探究」がキーワード

今回の高校教育改革のキーワードとして「探究」があります。
「探究」とは、子どもたちが自ら問いを立て、様々な学問・科学や芸術の手法を駆使して、より良い答えを見出していくような学習を指します。一つの「正解」を人から教わるのではなく、試行錯誤を繰り返し、多様な他者と協働しながら、いちばん良いと思われる「解」(最適解)を見出していくような学びですね。

実は、世界的に見ると、日本の小学校ではこの「探究」が非常に進んでいたといえます。保護者の皆様の中にも、国語や算数の授業で、文章の読み取りや問題の解き方についてみんなで議論したとか、理科の実験や観察を楽しんだ記憶が残っているかたも多いのではないでしょうか。
ところが、中学、高校と進むにつれ、授業は先生が教科書に沿って知識を教える「非探究的」なものになりがちでした。世界的にみれば逆で、年齢が進むにつれ探究的な学習になるという流れのほうが主流です。

SSHでの成果から生まれた「理数探究」

今回、高校では多くの教科目の内容が見直されますが、「日本史探究」「世界史探究」「古典探究」など「探究」のつく科目名が目立ちます。中でも、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)での取り組みの成果から生まれてきた「理数探究」には注目が集まっています。

SSHは文部科学省が指定する研究校で、2002年に設置されました。SSHでは、理科や数学という教科の枠を越えて、生徒が自分たちで問いを立て、独自に研究手法を決めて協働的に研究を進め、しっかりした論文の形にまとめ、プレゼンテーションまで行っています。その教育的成果にはめざましいものがあるため、SSH指定校以外でも「理数探究」という選択科目を設置してよいことになりました。

もともと理科(科学)と数学は密接に関わっており、多くの数学理論は、現実の自然現象を科学的に理解し表現するために生まれてきました。たとえば微積分は、ニュートンが万有引力を発見する過程で生み出した考え方です。大学で理学部や工学部に進んだ場合、数学を使わないことはまずありえません。「理数探究」がどれだけの高校に設置されるかまだわかりませんが、高校生の科学的な思考力を押し上げる科目になるのではないかと期待されます。

次回は、注目される教科目についてさらに詳しくお話しします。

プロフィール


奈須正裕

上智大学総合人間科学部教育学科教授。新学習指導要領の作成に携わり、中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会をはじめ、教育課程企画特別部会、総則・評価特別部会などの委員として重要な役割を担う。著書に『「資質・能力」と学びのメカニズム』(東洋館出版社)など。

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