高校入試はどう変わる? 新学習指導要領と中学校教育・高校入試
今回の学習指導要領の改訂は、高大接続改革(大学入試改革)と連動している点で注目されています。大学入試が変わるなら、高校入試はどう変わるのでしょうか。
新学習指導要領作成の中核的メンバーであり、中央教育審議会・教育課程部会の中学校部会委員でもある奈須正裕先生に、今後の高校入試と中学校教育の方向性についてうかがいました。
「出口」を変えないと授業は変わらない
知識・技術を自分らしく使いこなし、周囲の人と協働しながら問題解決に向かう「資質・能力」の育成が、今回の学習指導要領改訂のポイントです。これまでも、そのような資質・能力に価値を認めない先生はいなかったと思います。
しかし、高校までの教育の「出口」ともいえる大学入試問題に、要素的な知識・技能を問うものが多かったため、中学・高校の授業も知識をたくさん教える形になりがちでした。そこで今回は、併せて出口も変えようということで、大学入試のあり方を見直す「高大接続改革」が進められているわけです。
大学入試が変わるなら、今後高校入試はどう変わっていくのでしょうか。
近年、各都道府県の公立高校の入試問題は、思考力・判断力・表現力等を問う方向に緩やかに変化しているといえると思います。また、英語の資格・検定試験の成績を高校入試に反映できる制度を導入した大阪府・福井県、スピーキングテスト導入の方針を発表した東京都のように、英語4技能を重視する動きは進みつつあります。
また、広島県では、資料の読み取りや条件作文などで思考力・判断力・表現力を見るなど、かなり大胆に県立高校の入試問題を変えてきています。
英語では、長文を読んだり聞いたりした後、自分の答えを英語で書くような問題が出題されます。このような問題に対応するには、単語や文法事項の暗記では対応できないため、中学の授業も変わってきているといいます。
良問を生み出す体制の整備が必要
とはいえ、ここまで大胆に高校入試を見直す余裕がない、というのが多くの都道府県の実情ではないでしょうか。
現在は教育委員会の中にいる指導主事を中心に、高校の先生方が協力して作問にあたっている都道府県が多いと思いますが、1教科に1人以上の専従の職員が、1年かけて作問に責任を持つくらいの体制が必要ではないかと個人的には考えています。
生徒の資質・能力を見極める問題をつくるには、出題内容だけでなく、統計数学等をも含めた高度な専門知識が必要だからです。思考力・判断力・表現力等をはかる目的で問題をつくっても、数年たてば分析が進み、パターン別の解法テクニックが見えてきて暗記や練習で対応できるようになってしまうのがテストの宿命です。そうならないためには工夫を重ね、挑戦的に良問をつくり続ける必要があるのです。
高校入試は、中学の授業のあり方、ひいては各都道府県の学力の質を左右するものです。今後求められる学力や授業の質、その成果としての資質・能力をはかるための高校入試とその実現体制について、ぜひ地域でおおいに議論していただきたいですね。
つながる小学校・中学校と高校での学び
中学校の教科書や授業のあり方が変わり、高校入試も変わるとなれば、定期テストも変わり、一夜漬けの暗記では対応できないような出題が工夫されるようになると思います。テスト後はすべて忘れてしまうような学び方ではなく、学んだことが積み上がり、より深く、広い視点から物事を考えられるようになるのが、資質・能力ベースの学びです。
小学生が新中1生となったときに、学校生活や授業のあり方になじめず、その状況が不登校やいじめといった様々な問題につながることを「中1ギャップ」と呼びますが、その原因のひとつに、小・中学校の学びが滑らかに接続していない点が挙げられると思います。
たとえば小学校5・6年生になると、算数で「比例・反比例」を学びますが、これは中学で学ぶ関数につながる考え方です。算数が「数学」になると、より抽象度が上がり、xやyなど見慣れない記号や数式が出てくるため、拒否反応を起こしてしまう子もいます。理科や社会で学ぶことも、そのほとんどが小学校で学んだことをより深く学びなおしているだけなのですが、その関連を見通しづらいため、子どもたちは不安になりがちなんですね。
お子さまが中学に進学された際、保護者の方が勉強を教える機会があれば、ぜひお子様と一緒に小学校と中学校の教科書を見比べ、「似ているところを探す」ということをやってみてください。
「小学校で学んだこの単元がベースになっているんだな」とわかると教えやすいですし、お子さまにも安心感が生まれます。先生や保護者の方が、教科や単元のつながりや系統を意識した教え方をすると、子どもたちにも、以前学んだことや他教科とのつながりが見えやすくなり、知識や技能が系統化して、より「使える」ようになっていくでしょう。
小学校から中学校へ、高校へと学んだことが積み上がり、つながりあってできることが増えていく。子どもたちがそんな実感を持てるような学びが、今回の学習指導要領改訂が目指す姿といえるのです。