経済格差が幼児の自然体験などにも忍び寄る

家庭の経済状況に起因する子どもの「学力格差」が大きな問題となっていますが、野外体験、スポーツ・芸術、一般教養などにかける費用も、年収の高い家庭のほうが多いことが、文部科学省が発表した2016年度「子供の学習費調査」の結果でわかりました。
幼少期の体験は、子どもの思考力やコミュニケーション能力に大きく影響します。思考力やコミュニケーション能力は、新学習指導要領でも大きな柱となっており、「体験格差」による新たな格差問題も懸念されます。

幼・小の「その他」教育費に表れる

文科省による全国学力・学習状況調査の分析では、家庭の経済力の高い子どものほうが、低い家庭の子どもよりも成績がよいということが、データ的に明らかにされています。「子供の学習費調査」でも、年収の高い家庭ほど、子どもの学習塾等にかける「補助学習費」が多くなっています。
一方、学習塾等の費用以外でも、家庭の経済力による「格差」があります。ハイキングなどの野外活動、スポーツや文化活動、動物園や水族館などに行く「教養・その他」などに関する教育費です。
「体験活動・地域活動」「スポーツ・レクリエーション活動」や「芸術文化活動」「教養・その他」の教育費を合計した「その他の学校外活動費」の年間支出額を家庭の年収別に見ると、子どもが公立幼稚園に通っている場合、年収「1,200万円以上」の家庭は25.4万円、「1,000万円~1,199万円」が15.1万円、「800~999万円」が11.4万円、「600万円~799万円」は8.2万円、「400万円~599万円」は5.7万円、「400万円未満」が3.7万円で、年収の差が「その他の学校外活動費」の違いに表れています。
ただし、中学校以上になると、家庭の年収と「その他の学校外活動費」にあまり関係は見られなくなります。これは、子どもの学校外活動の中心が、野外活動やスポーツ・文化活動などから学習塾に移行するためと思われます。

体験の格差が思考力の育成などにも影響

この結果、幼稚園と小学校での野外体験、スポーツ・文化活動などの学校外活動においても、家庭の経済力による格差が生まれつつあると言えそうです。内閣府や国立青少年教育振興機構などの調査によると、幼少期の自然体験など体験活動の多寡は、子どもの思考力やコミュニケーション能力の育成に大きく影響しています。
新学習指導要領では、思考力・判断力・表現力などの育成が柱となっている他、2020年度からの大学入試改革でも、知識を活用した思考力などが重視されます。そうなると、幼少期から多くの体験活動を積んでいる経済力の高い家庭の子どものほうが、思考力などの面でも有利になる可能性が高いと言えそうです。
背景には、自然体験や子どもの集団活動にもお金が掛かるようになったという社会の変化があります。しかし、お金が掛かるものばかりが体験活動はではありません。▽家のお手伝いをする▽地域行事に参加する▽家庭で芸術や文化を話題にする……なども、立派な体験です。
今後、思考力やコミュニケーション能力が重視されるなかで、子どもにさまざまな体験を積ませるよう努力することが、保護者に求められていると言えるでしょう。

(筆者:斎藤剛史)

※平成28年度子供の学習費調査
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa03/gakushuuhi/kekka/k_detail/1399308

プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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