外国語の教科化「伝えたい」という意欲を育てる 小学校の教育
今回の学習指導要領改訂(2018年度から移行措置期間、2020年度から小学校で完全実施)による小学校での教育の大きな変更点は、「外国語を、小学校5・6年生から教科とする」「道徳を教科とする」「プログラミング教育を導入する」の三つです。
新学習指導要領作成の中核的メンバーであり、全国の学校の先生がこれからの授業づくりの参考書としている『「資質・能力」と学びのメカニズム』(東洋館出版社)の著者・奈須正裕先生(上智大学)に、今回はこの三つの変更点のうち「外国語の教科化」についてうかがいました。
「外国語活動」の成果を受けて教科化へ
小学校への英語導入については、30年ほど前から議論されてきました。平成10年の学習指導要領改訂の際には「総合的な学習の時間」で実施可能な国際理解教育の一環として「外国語活動」が提起されます。さらに平成20年の改訂では、5・6年生で週1時間の「外国語活動」として制度化されました。
外国語活動の目的は、外国語によるコミュニケーションと、その背景にある外国の文化に「慣れ親しむ」ことです。文法や文字は教えず、ゲームや歌などを通じて英語に親しみ、コミュニケーションへの意欲を高めていきます。
活動の成果として、英語を用いたコミュニケーションに苦手意識をもたない子どもが増えてきています。小学校高学年にもなると「もう少しちゃんと話したい」、「海外の友達とお手紙やメールをやりとりしたい」といった欲求をもつ子もいます。
一方、歌やゲームなら、高学年より3・4年生のほうが効果が上がるのではないかという現場の声もありました。
このような状況を受けて、今回の改訂では、5・6年生で外国語を教科とし、3・4年生から外国語活動を行うことが決定されたわけです。教科になると、教科書ができる、文字の要素が入る、知識・技能が積みあがるように目標が設定され、それに対する評価をきちんとしていく、といったことが変わってきます。
英語を指導する先生方への支援措置も
これまで、小学校の先生は英語を教えることを求められてきませんでした。英語の教科化にあたって、文部科学省は、英語指導の専門知識をもつ指導者を増やすため、現職の小学校教諭向けに中学校教諭二種免許状(外国語(英語))の取得を支援する措置を取っています。現在、全国には約2万校の小学校がありますが、最終的には1校に1人、約2万人の先生に、中学の英語の免許を取っていただくことを目指すといいます。
日本に先行して小学校で英語教育を行ってきた韓国などでも、同じように指導者の問題を抱えていましたが、現在はAV教材やICT教材を活用しながら、担任の先生が教えるという形に落ち着いています。日本でも、中学の英語免許を取得した先生が中核となり、ICT教材を活用しながら進めていく形になるでしょう。地域によっては、中学校と連携し、小学校5年生から中学3年生まで、5年間の一貫した英語教育を考えようとする動きもあります。
「知りたい」「伝えたい」がコミュニケーションの第一歩
今、教育界全体として「英語教育の質を変えていこう」という機運が高まっています。会話を聞いたり、英文を読んだりしてだいたいの意味が取れる、最初は多少ブロークンな英語でもよいから話したり、書いたりして自分の意思を伝えられる。まずはそのようなコミュニケーションを目指そうとしているのです。単語や例文を細切れに暗記するのではなく、まずは使ってみることが大切です。
小学校の外国語活動では、自分の言いたいことを相手に一生懸命伝え、相手の言葉も一生懸命聞いて、意思が通じたときの「嬉しい」という実感を大切にしてきました。英語が教科となっても、その基本は変わりません。今後は文法と逐語訳に傾きがちだった中学・高校の英語のほうがゆるやかに変化していく見通しですから、小学校と中学・高校の英語はよりうまく接続されるのではないかと期待しています。