これからの幼稚園・保育所選びと習い事

新学習指導要領では、「知識及び技能」だけでなく、それらを自分らしく使いこなす力や、好奇心、探究心、他者と協力する力など「学びに向かう力、人間性等」も学力と見なしています。今回は、新学習指導要領作成の中核的メンバーであり、教育課程部会幼児教育部会の委員として新幼稚園教育要領にも関わった奈須正裕先生に、この新しい学力観に照らし、これからの幼稚園、保育所選びや習い事についてうかがいました。

大事なのは園生活の基本である「遊び」「暮らし」

幼稚園・保育所ではもともと遊び・暮らしを通して「資質・能力」をていねいに育てる教育が行われてきました。今後は小学校以降の学びも「資質・能力」の育成に重点が置かれることとなりますので、幼稚園・保育所の教育は何も変わりません。見極めるべきは園生活の基本となる「遊び」「暮らし」の質です。

たとえばごっこ遊びやものづくりにおいても、子どもたちは本気になると様々な力を発揮します。初めて見るような表現方法を工夫したり、大人数で協力して複雑なことに取り組んでいたり。大人が見ても「面白いな」「本格的だな」と感じるような遊びが、自然に生み出されているような幼稚園や保育所は良いと思います。
また、園長先生や現場の先生方と直接お話ししてみるのも良い方法です。その施設では子どもたちをどう育てようとなさっているか、基本的な考え方がわかります。
なお、避けたいのは、放課後の英会話やスポーツ教室など、オプショナルサービスの量で決めてしまうこと。幼稚園・保育所で最も大事なのは、あくまでも日々の「遊び」「暮らし」という園生活の基本的な部分の質です。

園庭や保育室からわかること

子どもたちは、日々園庭や保育室を回遊して行く先々で様々なものと出会い、触発されながら遊びを作っていきます。良い園は、子どもが遊びを思いついたら存分に熱中できるよう、様々なコーナーがうまく整えられています。たとえばおままごとが自在にできるコーナーとか、ものづくりのための材料や道具がそろっていて、いつでも使えるコーナーなど。そして、空間に何らかの秩序や統一感があって、美しさが感じられることも大事です。都会の中でも、自然や季節の移り変わりを感じられるよう配慮された園もいいですね。

幼稚園・保育所は子どもが一日の何時間かを「暮らす」場所です。「うちの子がここで暮らすとしたらどうか」と、住まいを選ぶ感覚で見るのも良いと思います。「施設は立派でも寒々しい感じがする」とか、「狭いけれども居心地が良さそう」といった直感は、案外と信じられるものだと思います。

「資質・能力」を伸ばす習い事とは?

幼児期から、何か習い事をさせたいという保護者のかたも多いことと思います。また、この時期にきょうだいやお友達の習い事に興味をもち「やってみたい」という子も多いですね。好きなものに出会うチャンスを増やしてあげるのは良いことです。
ただし、知識や技能をたくさん所有すること=成長ではない、ということは忘れないでいただきたいと思います。「資質・能力」の育成とは、知識・技能を自分らしく、自在に使いこなす力をつけることです。自分の内面、「根」の部分を育てることともいえます。

たとえば子どもがピアノに熱中し、好きな曲を練習することに喜びを感じているとすれば、その子はピアノを通じて内面を豊かに育てています。ピアノが、手になじんだ道具のように、その子らしいものの見方や感じ方を育て、その子の世界を広げてくれるのです。

しかし、好きでもないピアノを続けさせた結果、手が動いて有名な曲が弾けるようになったとしても、それはあまり意味のないことです。むしろ、資質・能力を育ててくれる大切な遊びの時間を、大人の都合で奪っていることにもなりかねません。
ですから、習い事を始める前には、よく本人と相談すべきですし、始めた習い事を子どもが辞めたいといったら、辞めさせてかまわないと思います。本人が望まない習い事を続けさせることは、体の外に「ピアノ」「体操」「英会話」といったバッジや勲章をつけているだけで、内面の成長にはつながりません。

繰り返しになりますが、幼児期に遊び・暮らしを通して身につくことは、一生の学力の基盤となります。まずはお子さまと一緒に遊ぶ時間、生活を楽しむ時間を何より大切にしていただきたいと思います。

プロフィール


奈須正裕

上智大学総合人間科学部教育学科教授。新学習指導要領の作成に携わり、中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会をはじめ、教育課程企画特別部会、総則・評価特別部会などの委員として重要な役割を担う。著書に『「資質・能力」と学びのメカニズム』(東洋館出版社)など。

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