新学習指導要領実施とこれからの「教育費」を考える
2017年12月初めに「大学入学共通テスト(以下「共通テスト」という)」の第1回試行調査の問題が公表されました。その内容は、新学習指導要領(以下「新指導要領」という)の改訂とも密接な関連があります。
グローバル化の進展、人工知能技術をはじめとする技術革新などに伴い、社会構造が急速に変化し、予見が困難な時代に突入するという認識のもと、大学入試改革とともに新指導要領がセットとなって、教育改革がなされています。
大学入試改革・新指導要領で求められる力
共通テスト及び各大学の個別入学試験で求められる力が、すなわち新指導要領の柱になっている「主体的・対話的で深い学び」です。
共通テストの試行調査の分析や第2回試行調査以降の問題等の動向を見守ることにはなりますが、今後教育現場は具体的にどのように変化し、保護者はどのように対処すればいいのでしょうか。
新指導要領では、英語教育、プログラミング教育などが盛り込まれています。文部科学省が掲げる『学力の3要素』(1.知識・技能、2.思考力・判断力・表現力、3.主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度)のうち、これまで知識・技能というインプット重視だったものが、今後は思考力、判断力、表現力、そして主体性というアウトプットが重視されることから、アクティブ・ラーニングという言葉がクローズアップされています。
すでに、新しい学習形態を取り入れた塾や作文教室、理科実験教室、体験型の教室、プログラミング教室、英語塾など、新指導要領を意識した教室が広まり始めています。
アウトプットが重視されても、その基礎となる「知識・技能(インプット)」は必要です。上手な作文を書くには、言葉をたくさん知っていることが必要ですし、プログラミング技術には、プログラミング的思考を持つことが必要です。インプット重視だった「詰め込み教育」からアウトプット重視の「ゆとり教育」を経て、両方を重視する今回の新指導要領の実施となったといえるでしょう。
これからの「教育費」とは
これからの子どもたちは、今の大人が経験していない予見が困難な時代を生きることになります。保護者や教師の経験に基づくアドバイスのすべてが有効とは限らない場合でも、子どもたちが自らの人生を主体的に選択できる力を身につけなければなりません。保護者は、「ペーパーテストでよい点を取って、偏差値の高い大学に入学することが将来の選択肢を広げる手段である」というステレオタイプから脱することが大切です。
新指導要領における評価方法の基本になるのは『学力の3要素』です。「高大接続改革」では、大学の一般入試にも高校の調査書の提出を求めることが検討されています。保護者の皆さんは、インプットもアウトプットも学校の評価に重要と聞いて、学習塾に加えて、英語塾やプログラミング教室、実験教室等々にも通わせなくてはならないと焦っているかもしれません。ゆとり教育が始まったころに、私立中学の受験率が跳ね上がったような現象が起きる可能性もあります。
景気が少し上向いたとはいえ、保護者の収入が、今後急激に伸びる要素は見当たりません。晩婚化が進み、子どもが高校生、大学生になるころに定年退職を迎える保護者もいます。
目先の変化や情報に振り回されて幼少期に教育費をかけ過ぎないようにしましょう。将来、例えば子どもから「留学したい」と言われたときに、「いいよ」と即答できるように準備しておくことが大事です。
道徳教育の充実も新指導要領の柱の一つです。道徳的な価値を身につけることや、思考力・判断力・表現力、主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度は、家族旅行に行ったり、スポーツ・芸術に親しんだり、ボランティア活動・部活動などの経験を通しても培われるのではないでしょうか。
新しい指導要領のもとでの「主体的・対話的で深い学び」を実現する「教育費」が、塾代や習い事の費用にとどまらず、子どもが楽しみながらたくさんの経験をする費用が「教育費」となるのであれば素晴らしいと思います。
2019年11月1日、文部科学省より2020年度(令和2年度)の大学入試における英語民間試験活用のための「大学入試英語成績提供システム」の導入を見送ることが発表されました。