入試より「前」に…どんどん変わる大学の教育

2021年1月から大学入試センター試験に代わって実施される「大学入学共通テスト」が関心を集めていますが、今回の大学入試改革は、「大学教育」と「高校教育」、その両者を結ぶ「大学入学者選抜」の三者を一体的に改革するという「高大接続改革」が本当の狙いであることを忘れてはいけません。というのも、文部科学省の2015年度「大学における教育内容等の改革状況調査」で、思考力の育成などを重視した大学教育の改革が進んでいることがわかったからです。思考力重視の教育への対応は、共通テストに向けて備えればよい……などと悠長なことはいっていられないようです。

「能動的学修」70%で

調査によると、「能動的学修(アクティブ・ラーニング)を効果的にカリキュラムに組み込むための検討」を実施したのは523大学(国立69大学・公立59大学・私立395大学)で、全体の70.1%に上っています。
2012年度は407大学(国立61大学・公立45大学・私立301大学)、54.8%でしたから、3年間で100大学以上も増えたことになります。特に私立大学で増加しているのが注目されます。
大学教育への円滑な移行のため新入生を対象にした「初年次教育」を実施しているのは721大学、96.6%で、ほとんどの大学が行っています。このうち初年次教育で「プレゼンテーションやディスカッション等の口頭発表の技法を身に付けるためのプログラム」を実施したのは、2011年度の69.5%から、2015年度は82.3%に増加。さらに「論理的思考や問題発見・解決能力の向上のためのプログラム」を実施したのも、49.0%から65.4%に増えています。大学入試改革を待たずに、多くの大学が思考力や表現力などの育成を重視した改革に着手していることがうかがえます。
英語による授業の実施など、大学教育のグローバル化対応も急速に進んでいるようです。「英語による授業」を学部段階で実施しているのは2011年度が222大学(国立47大学・公立21大学・私立154大学)、30.1%でしたが、2015年度は305大学(国立61大学、公立30大学、私立214大学)、40.9%となっています。
この他、一定レベルの成績を取らないと卒業・進級できないGPA制度(厳格な成績評価法のひとつ)を導入する大学も2011年度の61.5%から2015年度は85.0%に、「学生の学修時間や学修行動の把握を行っている」という大学も36.5%から81.0%に、それぞれ増加しており、学生の学習意欲などを重視する大学が増えています。

「3ポリシー」の策定・公開義務付けで進む

これら大学の教育改革の進展の背景には、卒業認定・学位授与の方針、教育課程編成・実施の方針、入学者受け入れの方針の「三つの方針(ポリシー)」を策定・公表することが、文科省により2017年度から義務付けられたことがあります。
各大学は、学生にどんな教育をして、どんな力を身に付けさせて卒業させるのか、そのためにどんな入学者像を求めるのかを、ホームページなどで明示しなければならなくなりました。このため数年前から、各大学は思考力の重視やグローバル化への対応などの改革に力を入れざるを得なくなっているのです。
大学入試改革を待たずに、思考力や表現力、学習意欲などを重視する教育は、既に多くの大学で始まっているといえそうです。

(筆者:斎藤剛史)

※大学における教育内容等の改革状況について(2015年度)
http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/daigaku/04052801/1398426.htm


2019年11月1日、文部科学省より2020年度(令和2年度)の大学入試における英語民間試験活用のための「大学入試英語成績提供システム」の導入を見送ることが発表されました。

プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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