「教育が変わる」って、どう変わる? 学習指導要領改訂のポイント①

大学入試改革と関連して語られることの多い、新学習指導要領。
今回の改訂により、結局のところ、何がどのように変わるのでしょうか。
新学習指導要領作成の中核的メンバーであり、全国の学校の先生からも高い評価を得ている『「資質・能力」と学びのメカニズム』(東洋館出版社)の著者・奈須正裕先生(上智大学)に、改訂のポイントについて3回シリーズでお話をうかがいます。

そもそも学習指導要領とは?

学習指導要領とは、国が定める教育課程の基準です。各学校はこの基準を指針としてカリキュラムを組み、教科書もこれに沿って編纂されます。学習指導要領はほぼ10年ごとに改訂されることになっており、今回は2008年に続く8度目の改訂です。小学校と中学校の新しい学習指導要領は2017年3月に告示され、小学校は2020年度、中学校は21年度から全面実施されることになります。

大きく変わるのは学習内容より「学力観」

改訂の内容として、小学校5・6年生で英語を正式な教科として導入する、小学校でプログラミングを必修とすることなどがありますが、既存の教科の時間数や学習項目には変化がありません。
学習項目を大きく変えない理由として、ひところ「学力低下」が問題とされたものの、近年は持ち直していることが挙げられます。たとえば2015年実施の国際学力調査PISAの結果を見ると、日本の生徒の「科学的リテラシー」の平均点はシンガポールに次いで2位。「読解力」「数学的リテラシー」では、シンガポール、香港、フィンランドなどに上位を譲るものの、米国やイギリス、フランスなどの先進諸国を上回っています。

では、どこが変わるのでしょうか。今回の改訂の大きなテーマは「学力観」の拡張です。
今後の教育では、知識・技能を持つだけでなく、それを自在に、自分らしく使いこなせるところまでを目指します。これを「資質・能力」の育成と呼んでいます。「何を知っているか」だけでなく、その知識を使って「何ができるか」「どのように問題解決を成し遂げるか」までを学力と見なすわけです。今回の改訂は、この学力観に沿って大学入試のあり方まで見直そうとしているところがポイントです。
実は「資質・能力」の育成を目指す教育は、すでに世界的なトレンドとなっています。日本の教育改革も、その動きに歩調を合わせているのです。

「割り算の計算ができる」だけでなく、「なぜここで割り算が使えるか」まで理解を

これまで学力とは、おもに知識や技能の量とみなされてきました。「割り算」を教わったら、教わったとおり素早く割り算ができることが「勉強ができる」ことだと考えられてきたのです。
しかし、実生活の中の問題では「これは割り算の問題だよ」と誰も教えてくれないので、どの知識をどう組み合わせれば答えが出るか、自分で考えなくてはなりません。
たとえば「140人の子どもを乗せるには、60人乗りのバスが何台必要ですか」という問題なら、140を60で割って2と3分の1台、「3分の1台」のバスはないので「3台」と答えが出ます。しかし、実生活の中では、示された数字だけ使えば答えが出るケースは少ないはずです。

「140人の子どもがバスに乗ります。バスの運転手さんは28歳で、高速道路の制限速度は時速80キロです。バスは何台必要ですか」。
こんな問題を出すと、最初のうち、子どもたちは140を28で割ったり、80を引いたりし始めます。でも、それでは割り算がわかっていることになりません。「先生、これでは解けません」「バスが何人乗りか教えてくれたら解けます」と言えてこそ、本当に割り算を理解できているということです。

このように、今回の学習指導要領が求める「学力」とは、割り算の手順だけでなく、「割る」とはどういうことかを理解し、自分で考えて使いこなせる、あるいは他者と協力しながら問題解決に生かせる力なのです。

ここまで読んで、「これまでだって『知識だけではダメ』といわれてきたのでは?」「大学入試も変わるのはなぜ?」などと疑問をお感じのかたもいらっしゃるかもしれません。
次回は、改訂までの経緯と大学入試改革の関係についてさらに詳しくお話しします。

プロフィール


奈須正裕

上智大学総合人間科学部教育学科教授。新学習指導要領の作成に携わり、中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会をはじめ、教育課程企画特別部会、総則・評価特別部会などの委員として重要な役割を担う。著書に『「資質・能力」と学びのメカニズム』(東洋館出版社)など。

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