アクティブ・ラーニングは、学力の経済格差を広げる?

文部科学省が公表した2017(平成29)年度の全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の結果は、子どもたちのテストの成績だけでなく、さまざまなデータを提供してくれます。
思考力などを育成するアクティブ・ラーニング(AL)と同様に従来型の知識伝達授業も、家庭の経済力の低い子どもたちには有効である可能性があるということがわかりました。

積極的にする学校ほど学力が高い

全国学力テストでは、「習得・活用及び探究の学習過程を見通した指導方法の改善及び工夫をしましたか」という質問を学校にしています。これはALを授業で取り入れているかどうかを聞いたものと受け取ってよいでしょう。
ALの実施状況とテストの平均正答率の関係を見ると、小学校の算数Aを例に取ると、ALを「よく行った」学校の平均正答率は79.8%、「どちらかといえば、行った」学校は78.4%、「行っていない」(「あまり行っていない」と「全く行っていない」の合計)学校は76.4%となっています。この傾向は小中学校とも国語A・B、算数・数学A・Bの全部のテストで同じでした。ALを積極的に実施している学校のほうが、子どもの学力が高いということを証明しています。

しかしこのデータを、就学援助を受けている子どもの在籍率が「30%以上」の学校と「5%未満」の学校とに分けてみると、不思議なことがわかりました。
中学校の国語Aを例に取ると、ALを「よく行った」学校のうち、「5%未満」の学校の平均正答率は80.2%、「30%以上」の学校は74.7%で、経済力のある家庭の子どもが多い学校のほうが学力は高くなっています。ところがALを「行っていない」学校を見ると、「5%未満」の学校の平均正答率は72.3%なのに対して、「30%以上」の学校は73.1%でした。
この傾向は中学校の全部のテストで共通しています。

つまり、ALを積極的に実施している学校では、家庭の経済力の高い子どもが多い学校のほうが学力は高いのに対して、ALを「行っていない」学校では、家庭の経済力による学力差があまりない、または家庭の経済力が低い子どもの多い学校のほうが学力は高いということです。

言い換えれば、思考力の育成などを重視するALは、経済力のある家庭の子どもの学力をより向上させて学力格差を拡大するが、従来型の知識伝達授業は家庭の経済力による学力格差をあまり広げないとも言えます。

ポイントは家庭の「経済力」より「文化資本」

では、ALをしないほうがよいのでしょうか。問題は、そう単純ではないでしょう。

あくまで推測ですが、この原因は家庭の「経済力」よりも「文化資本」にあるのではないでしょうか。幼少期から自然体験などさまざまな体験活動を積んでいる、家庭に新聞や蔵書がある、保護者が論理的な会話をしている、家庭で社会問題などを話し合っているなどの「文化資本」がある家庭の子どもは、ALによる学習がより効果的に働く一方、「文化資本」が低い子どもたちには、知識伝達授業の長所が効果を発揮すると考えらます。

21世紀を生きる子どもたちにとって、思考力の育成などを重視するALによる学習は不可欠です。それをより効果あるものにするには、家庭の「文化資本」が重要であるということを保護者は認識しておく必要がありそうです。

※平成29年度全国学力・学習状況調査の結果
http://www.nier.go.jp/17chousakekkahoukoku/17summary.pdf

(筆者:斎藤剛史)

プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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