FPが考える、社会全体で子育てを支援するには
少子化対策が必要と言われ始めて20年程度経過していますが、なかなか成果が現れない難しい課題です。少子化が止まらない要因は複数考えられますが、女性の社会進出が進む一方で子育てしながら働く環境が整わないことや子育て・教育にお金がかかりすぎる点などがあげられます。
そのような中で2015年4月にスタートした「子ども・子育て支援新制度」は、消費税率引き上げによる増収分を活かして、社会全体で子どもの育ち・子育てを支えようというものです。
スタートして2年が経過しましたが、具体的な施策は緒についたばかりです。国の施策には予算が関わるので実行まで数年かかることは珍しくありませんが、子どもを持つ当事者は待ったなしの状況です。少しでも早く効果的な施策が実行されることが重要です。
社会全体で子育てを支援する意味——格差の連鎖を断ち切る
社会全体で子どもの育ち・子育てを支えるという施策には、保護者の収入や生育環境によって子どもが教育を受ける機会に差が生じている、という格差の連鎖を断ち切ろうという意味が含まれています。
公立高校授業料の実質無償化はすでに実施されており、2017年度現在、収入制限はありますが、私立高校に進学した場合でも授業料相当分の負担軽減が実施されています。
大学や専門学校に進学したい場合、日本学生支援機構の貸与型奨学金の内、低所得世帯の生徒における第一種奨学金学力基準が実質的に撤廃され、2017年度進学予定者の予約採用から実施されています。2017年度から給付型奨学金も十分な内容とはいえないまでも実施されました。
低年齢の子どもへの施策はどうでしょうか。「みんなが、子育てしやすい国へ。すくすくジャパン!」(内閣府、厚生労働省、文部科学省)から2017年度の施策を抜粋してみました。
内閣府の施策——企業主導型保育事業
企業内保育園はこれまでも大企業を中心に存在していましたが、「企業主導型保育事業」は、複数の事業者が共同で設置することができ、地域住民の子どもも受け入れることで、国の助成を受けられる事業です。
夫婦ともに働き、子どもを保育園に預けたいと思ったとき、自分が働いている企業が設置した保育園に子どもを預けられれば、安心して働くことができます。保育園へ迎えに行く時間を心配することも少なくなります。
2016年度からこの制度が始まりましたが、同年11月時点で305事業者の助成が決定しました。さらに充実していくことが期待されます。
厚生労働省の施策——待機児童解消策の推進
保育園の待機児童の課題は、働く親にとっては切実な課題です。賃貸方式を活用した保育園、小規模保育事業所整備や保育士の確保などの施策を進めています。地域によってばらつきはありますが、2017年度現在、都市部では待機児童解消の目標は達成されていないことから、同年6月、首相は、来年度から「子育て安心プラン」に取り組み、遅くても3年後までに待機児童を解消すると発表しました。
文部科学省の施策——幼児教育の段階的無償化
公立の小学校、中学校は義務教育なので、授業料などはかかりません。しかし、幼稚園や高校でかかる費用については、自己負担が原則でした。高校の授業料の無償化に続き、幼稚園の費用も段階的に無償化が進められています。各自治体によりますが、世帯の収入とひとり親世帯・多子世帯によって区分化して補助金額を定めています。
民間企業の力にも期待
2015年4月「生活困窮者自立支援法」が施行され、生活困窮家庭に対する学習支援事業、いわゆる「無料塾」をNPO法人などが運営する場合、国の補助金が交付されています。「無料塾」は全国に広がりを見せていて生活困窮家庭の子どもたちが心身ともに安定できる場としても期待したいと思います。
従来からある「新聞奨学生」のように、民間企業(飲食業、介護事業など)が独自の奨学金を学生に貸与し、学生はアルバイトとして働きながら通学するシステムを取り入れる動きもあります。民間企業の多様な発想によって、学生が教育を受けられる機会がさらに広がってほしいと思います。
幼児・学校教育の費用負担が軽くなることや、夫婦ともに働きやすい環境を確保することも、子どもの教育格差を埋める手段の一つです。
誰もが自分が望む教育を受ける機会が与えられる社会が実現することは、安心して子どもを産み育てられることにつながり、それが少子化対策につながるのではないでしょうか。
(筆者:宮里惠子)