幼児教育に期待される「アドバイザー」
幼児教育は、小学校以降の教育の基礎となる教育として、その役割がますます重要となっています。
その幼児教育の質の充実を図るために最近、注目されているのが「幼児教育アドバイザー」という存在です。文科省から研究を委託された東京大学は、「幼児教育の推進体制構築事業」に関する報告書をまとめました。なぜ幼児教育アドバイザーが必要なのでしょうか。
研修や研究の機会が少ない幼稚園教員
幼児教育の中心的な場である幼稚園や保育所は、実は教育行政の面から見ると、制度的な大きな課題を抱えています。公立小中学校の教員の給与などの人件費は、基本的に国と都道府県・指定都市が負担しており、研修や人事の権限も市町村ではなく、都道府県などが持っています。このため、学習指導要領の改訂などがあった場合、新学習指導要領などに関する教員研修は、都道府県などが主に実施します。
これに対して、幼稚園の教員は、設置者である市町村に研修や人事の権限と責任があるため、都道府県などの研修の対象とならないケースが少なくありません。さらに市町村は、財政的な事情から十分な研修ができないこともあり、幼稚園教員の「研修や研究を実施することが義務教育や高校教育に比べて難しい」と報告書は指摘しています。
また、小中学校は公立が圧倒的に多いのに対して、幼稚園は私立が多いという事情もあります。公立幼稚園は市町村教育委員会が所管しますが、私立幼稚園の多くは首長部局が所管しています。ただ、就園奨励費補助金などの事務が主な仕事で、教育面や教員研修などの問題には深く関わらないのが普通です。
次期教育要領具体化のカギを握る
さらに、幼稚園は教育(教育委員会)、保育所は福祉(首長部局)、認定こども園は両方にまたがるなど、形態により役所の所管が異なることも問題の一つだと報告書は述べています。次期学習指導要領や次期幼稚園教育要領で、幼児教育と小学校教育の連携や思考力・判断力・表現力等の育成が重視されているにもかかわらず、それを幼稚園などに周知する仕組みが十分ではない……ということです。
2016(平成28)年末に学習指導要領の改善を答申した中央教育審議会は、答申の中で「幼稚園、保育所、認定こども園等を巡回して指導・助言を行う幼児教育アドバイザーの育成・配置」や、幼稚園が、地域における幼児教育センターとしての役割を果たすことを求めています。
しかし東京大学の調査によると、幼児教育アドバイザーを常勤職員として配置している市町村は全体の12%、非常勤職員として配置している自治体は19%しかありませんでした。報告書は「市町村レベルに幼児教育アドバイザー等をどう普及させていくかが課題である」と述べています。
幼児教育の重要性が増すなかで、どうやって実際の幼稚園などにおける幼児教育を新教育要領などの内容に沿って充実させていくかが、これからの幼児教育の大きな課題と言え、幼児教育アドバイザーなどの配置の推進が求められるところです。
※平成28年度「幼児教育の推進体制構築事業」の実施に係る調査分析事業
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/youchien/1385242.htm
(筆者:斎藤剛史)