学校施設の課題は耐震化から長寿命化へ

これまで学校の校舎などをめぐる大きな問題は、地震などに対する「耐震化」でした。しかし、それが一応の完成に達したことから、次の課題として校舎など施設の「長寿命化」がテーマとなっています。施設の「長寿命化」とはどんなものなのでしょうか。また、なぜ新築や改築ではなく、長寿命化なのでしょうか。

公立小中学校の7割が築25年以上

古い建築基準により建てられたため強度に問題がある公立小中学校の校舎などの耐震化は、これまで地方自治体の財政事情の悪化などの理由から、なかなか進みませんでした。ところが東日本大震災の発生を契機に学校の耐震化に社会の関心が集まったこともあり、その後、公立小中学校の耐震化が急速に進みました。

一部には財源不足や学校統廃合が予定されているなどの理由から耐震化が進まない市町村もありましたが、耐震化の遅れている市町村名を公表したりするなどして、文部科学省が強力に耐震化を推し進めたこともあり、公立小中学校の校舎などの耐震化率は現在98.1%(2016<平成28>年4月1日現在)に達しています。これについて文科省は公立学校の耐震化は「おおむね完了した」と判断しています。

公立小中学校施設の問題として、深刻化してきたのが「老朽化」です。現在の公立学校の施設の多くは、第2次ベビーブームの際に建てられたものが多く、1972(昭和47)年から86(同61)年のわずか15年間に建てられた施設が、公立学校施設面積の53%と半数以上を占めています。さらに、築25年以上を経過した施設は、公立小中学校の施設面積の約7割を占めているとも言われています。

老朽化した施設は、通常は建て替えが原則です。しかし、短期間のうちにたくさんの施設が建てられたため、老朽化施設は徐々に増えるのではなく、急激に大量に出現することになりました。

財源不足を背景に選択

文科省では、今後15年間でこれまで以上に大量の学校施設が、築45年を超えて建て替え時期を迎えると予想しています。既に一部の学校では、外壁の剥落やベランダの落下などによる事故が発生しているところもあります。ただ、老朽化した施設が大量にあるため、建て替えでの対応は予算的に困難なのが実情です。

そこで登場したのが、建て替えではなく、改修や補修などにより施設をより長持ちさせようという「長寿命化」の考え方です。文科省は、長寿命化を推進するため、補助金を拡充するとともに、長寿命化改修の事例集や計画策定のマニュアルなどを公表しています。

事例集などで注目されるのは、単なる補修や改修ではなく、長寿命化と同時に時代の進展に応じた施設の改善を図っている点です。アクティブ・ラーニングなどの学習形態の多様化に対応した多目的スペースを整備したり、バリアフリー化を図ったり、子どもたちに不人気のトイレ環境を改善したりと、さまざまな工夫を取れ入れている自治体が事例集では紹介されています。
「安心・安全」は、学校の基本です。今後、長寿命化改修による安心・安全の確保と同時に、時代に合った教育環境へと、公立小中学校の施設が変わっていくことが望まれます。

※「学校施設の長寿命化改修に関する事例集」の公表について
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyosei/1383800.htm

(筆者:斎藤剛史)

プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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