学校で学び、家庭で実践!お金と物のじょうずな使い方
金融広報中央委員会が行ったインターネットによるアンケート「金融リテラシー調査(18~79歳の25,000人を対象、2016年6月公表)」によると、「金融教育を行うべき」と答えた人は62.4%で、「思わない」12.9%、「わからない」24.7%を圧倒的に上回る結果でした。ところが、求める声と実績には大きなギャップがあり、金融教育を行うべきと答えた人で、実際に受けたことのある人は、わずか8.3%にすぎません。
改めて明らかになった金融教育の必要性
そんな中、筆者は公立小学校5年生に「じょうずに使おうお金と物」というテーマで、家庭科の授業を担当する機会を得ました。5年生ともなれば、自分で使う文房具の購入やお手伝いでの買い物を任され始める時期でしょう。とは言え、各家庭でのお手伝いやおこづかい事情は異なります。
そこで、指導目標の「金銭や物の大切さに気づき、適切な購入をする」ために、おこづかい体験のできるワークショップを取り入れました。
落とし物が減らないワケ
小学校の各教室には落とし物入れがあります。授業当日も、持ち主不明の文房具などがいくつか入っていました。落とし主が見つからない理由を児童たちに聞いてみると、「誰の物かがわからない」「自分で気づいていない」「また買えばいいと思っている」とのこと。しかし一方で、「整理整頓をする」「名前や印をつける」ことで落とし物を減らせるという声も上がりました。
日々の家計をやりくりするでもなく、働いて収入を得るわけでもない児童たちには、身の回りの物にはお金がかかっているという現実に、なかなかピンと来ないところがあります。そこで、「毎日の生活の中でお金がかかるのはどんな時か」を聞いてみました。
お金の大切さがわかれば、物を大事にできる
答えがすぐには浮かんで来ないようでしたが、「もらった物やただで借りた物でなければ、きっとおうちのかたが買った物だよ」と声をかけているうちに、児童たちは具体的な生活費に気づき始めます。「顔を洗えば水道代がかかる」「毎食ごとに食費が必要」、そして「自家用車には保険料もかかっている」など、お金という視点から自身の家庭生活が見えてきたのです。
そこで、生活を支えるために家族が働いていること、安心して生活するためには収入よりも支出を少なくすることに話を進めると、家族の一員として今自分にできることは、「物を大事に使うこと」だという一つの答えにたどり着きました。
価値あるお金の使い方を考える
私たちが実際に買い物をする時は、本当に必要な物か、値段や品質の比較、買うタイミングなどを考えます。授業のワークショップでは、選んだ買い物カードの文言に従ってシートに記入し、おこづかい帳をつけました。カードは、必要な物、欲しい物、贈り物、貯蓄、寄付の5種類。自分のお財布と相談しながら買い物をすることを意識して、例えば、定価の新品と安価なリサイクル品のどちらを買うか選択できるようにしました。
ワークショップを通じて、児童たちから多くの気づきが出ました。買い方次第で値段が変わること。買う前に比較検討すること。貯蓄すれば将来の自分のために使えること。そして、人や社会のためにも使えること。実際におうちのかたと一緒にカタログ広告を見たり、セールの時期を待って買おうと言われたりという家庭内での具体的なエピソードもありました。
お金や物を大事に使うことは、自分なりの価値基準を見つけて判断していくことでもあり、かなり難しいことだと思います。授業の中で、児童たちは欲しい物がある時、「おうちのかたにお願いする」「お年玉などを使う」一方で、「考えているうちにあまり欲しくなくなる」「ガマンすることが多い」という行動をとることもわかりました。家庭生活の中で、買い物や葛藤を繰り返し体験しながら、価値観が磨かれていくことに期待しています。
よく考えて買うことは、よい経済循環を応援すること
ちょっと大げさかもしれませんが、私たちが選んで買った商品は、そのメーカーや小売店を支持するという社会的な意思表示でもあります。商品を買うことが、経済循環という形で応援することにつながるからです。
昨年、選挙権が18歳に引き下げられました。学齢期の子どもたちは、親世代よりも2年早く投票権を手にします。事前に調べ、よく考えて決めるプロセスは、買い物にも選挙にも通じる部分がありそうです。買う前によく考えて選ぶ、この買い物の楽しさをご家庭でもお伝えいただけたらと思います。
知るぽると 金融広報中央委員会「金融リテラシー調査」の結果
https://www.shiruporuto.jp/public/document/container/literacy_chosa/2016/pdf/16literacy.pdf
(筆者:中上直子)