市民社会の一員としての消費者教育を 日弁連が提言

日本弁護士連合会(日弁連)は、小学校から大学までを通じた消費者教育を実施するよう求めた意見書を、文部科学省と消費者庁に提出しました。消費者被害の防止だけでなく、自立した消費者の育成を通じて「消費者市民社会」の実現を提言しているのが大きなポイントです。

小学校から大学までを通じて

最近では、選挙権年齢の18歳への引き下げに対応して、民法の成人年齢を18歳に引き下げることの是非が議論を呼んでいます。成人年齢の引き下げは、18歳になると親の同意なしに売買契約を結べることを意味しており、悪質な詐欺などさまざまなトラブルが増えることが予想されます。日弁連は、若年消費者保護の立場から成人年齢の引き下げには慎重な姿勢を示しており、成人年齢の引き下げには、消費者教育の充実が不可欠としています。

では、どう消費者教育を充実させればよいのでしょうか。意見書は「高等学校に消費者教育のカリキュラムを集中させると時間数不足から知識偏重教育に後戻りしたり他の授業を圧迫したりする問題が懸念される」と述べるとともに、高校入学前でも、ネットゲームの課金などデジタルコンテンツに興味を持つ者は数多くいると指摘。そのため「小学校、中学校から充実した消費者教育を開始すべきである」としています。

また、従来の消費者教育は、詐欺など「消費者被害の防止」に力点を置いていると批判して、消費生活を社会全体の問題として考える自立した消費者の育成と、「消費者市民社会」の実現を訴えています。具体的には、日常生活のあらゆる場面が消費生活と関係していることから、小学校から高校では、家庭科や社会科だけでなく、関連するすべての教科に積極的に「消費者市民社会」の視点を取り入れながら、教科横断的かつ体系的な消費者教育を行うこと、その際の指導方法にはアクティブ・ラーニングを採用することが望ましいなどと提言しています。

ただし、学校の教員は消費者教育に関する専門的な教育を受けていないことから、指導に当たっては弁護士や消費生活相談員などの専門家と連携し、地方自治体や国は消費者教育の教材作成や人材育成に取り組むべきであるとしています。

トラブル防止にとどめず

さらに、大学生などになると一人暮らしをする機会が増えて、契約トラブルなどに遭う可能性が高まることから、適切に対応する力を身に付けるための実践的な消費者教育を実施することが求められると提言。具体的には一般教養科目に消費者教育を取れ入れるよう求めた他、大学などに消費者問題専門の相談窓口などを設置すべきだとしています。

消費者教育というと、トラブルなどの被害に遭わないようにする教育と思いがちですが、「消費者が主体的に消費者市民社会の形成に参画することの重要性について理解及び関心を深めるための教育」が消費者教育であり、小学校から大学まで成長段階に応じて一貫した教育が必要であると意見書は指摘しています。

現実の社会では、大人も子どもも消費生活から離れて生活することはできません。そのためこれからの消費者教育には、「消費者被害の防止」にとどまらない、もっと広い視点が必要とされているといえるでしょう。

※消費者教育の推進に関する意見書
http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/opinion/year/2017/170317.html

(筆者:斎藤剛史)

プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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