今年度から給付奨学金が先行実施! 今後はどうなる

新学期がスタートしましたが、進学志望の高校3年生の保護者にとっては、進学のための教育費が気にかかり始める時期でもあります。文部科学省は、返済不要の給付型奨学金を2018(平成30)年度から本格的に導入することにしました。2017(平成29)年度からは、一部先行実施の形で私立大学に通う自宅外学生に給付型奨学金を支給することにしています。給付型奨学金とは、具体的にどんな制度なのでしょうか。

批判受け消極的姿勢を転換

欧州の大学は、授業料が無料または低額で、学費負担が軽くなっています。米国の大学は、授業料は高いものの、給付型奨学金を含めて奨学金制度が充実しています。

これに対して日本の政府は、これまで、「平等性に欠ける」という理由で大学進学者などへの給付型奨学金制度の創設に消極的な姿勢を示し、国の制度としては、返済を必要とする貸与型奨学金制度しかありませんでした。世界的に見ても、先進諸国の中で給付型奨学金の制度がないのは日本だけともいわれています。

ところが、収入が低くて奨学金の返済ができない者が増加したことから、経済格差の拡大の原因であるとの批判が高まり、安倍内閣はついに2016(平成28)年6月に策定した「ニッポン一億総活躍プラン」の中に、給付型奨学金の創設を盛り込みました。

給付型奨学金は、2018(平成30)年度進学者から本格実施されることになっています。対象者は「住民税非課税世帯の人」または児童養護施設退所者などの「社会的養護が必要な人」で、いずれも高校の校長の推薦があることが条件となります。推薦基準は、日本学生支援機構ガイドラインに沿って各高校が定めることになっています。支給額は、国公立の自宅通学者が月2万円、同自宅外通学者が月3万円、私立は自宅通学者が月3万円、同自宅外通学者が月4万円です。

充実には社会の合意が不可欠

2017(平成29)年度からは、特に負担の重い私立大学などの自宅外通学者などのために、一部先行実施の形で給付を先取りして実施します。支給額は、私立の自宅外通学者が月4万円、国公立は「社会的養護が必要な人」のみが対象で月3万円となっています。在学する高校の推薦の他に、進学先の大学などからの推薦も必要とされています。2017(平成29)年度は約2,800人、18(同30)年度からは毎年約2万人を対象に支給される予定です。

やっと実現した給付型奨学金制度ですが、実際には募集定員がまだまだ足りない他、支給額も月額2万~4万円にすぎず、欧米の給付型奨学金に比べるとまだまだ見劣りがするのは否定できません。しかし給付型奨学金制度の拡充に向けた第一歩という意味では、制度の創設は大きな成果と言えるでしょう。今後、経済的理由で大学進学を断念する子どもを出さないようにするためには、給付型奨学金制度の発展と充実は不可欠であり、給付型奨学金のためにどれだけ財源を確保できるかが大きな課題となりそうです。

一方、大学進学はあくまで自己責任で、学費は個人が負担すべきだという意見も根強く残っています。しかし、経済的理由で進学を断念する者が増えることは、優秀な人材を失うことにもつながり、高等教育卒業者を増やすことは社会全体の利益になると言えます。日本を格差社会にしないためにも、高等教育を社会全体で支えていくという社会的合意を形成していく必要があると言えそうです。

※奨学金の制度(給付型)
http://www.jasso.go.jp/shogakukin/kyufu/index.html

(筆者:斎藤剛史)

プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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