第7回:高校の授業が変わる。高校入試が変わる。いま、備えておくべきこととは?
時代とともに移り変わる教育のあり方。あと3年後に迫る大学入試改革や次期学習指導要領の全面実施は、これまでにない大きな変化をもたらすといわれています。そこで今回は、高校の授業や高校入試がどのように変わるのか。すでに始まっている変化も含めて、ベネッセ教育総合研究所アセスメント研究開発室・室長の鎌田恵太郎と進研ゼミ受験総合情報センター・センター長の浅野剛がお話しします。
●「課題解決能力」に必要な言語能力の育成を目指す高校教育
Q:今度の大学入試改革や次期学習指導要領実施を受け、高校の教育はどのように変わるのでしょうか。
鎌田:教育目標が“知識・技能の習得”重視から“複雑な課題解決能力の育成”中心に変わるので、そのために必要な言語活動のスキルや態度を身につけることが重要になります。言語活動のスキルとは「思考力・判断力・表現力」という、熟考して評価し、表現する一連のプロセスで必要な力。そして、態度とは「主体的で対話的な深い学び」という、自ら学ぶ姿勢や人と協働する姿勢のこと。今後はこれらの力を育むための授業が増えると考えられます。
Q:各教科の具体的な変化について教えてください。
鎌田:変化が一番大きいのは国語科です。実社会・実生活で生きる言語能力を高めるための科目が新設されます。授業も、文章やデータ、資料などいくつかの資料を組み合わせて読み解き、筆者の意見と事実を区別したり、自分の考えを根拠をもとに述べたりしながら思考力や論述・議論のためのスキルを育みます。社会科も変わります。今までは知識の体系的な理解を中心に評価してきました。しかし今後は、たとえばテーマ学習をして関連する知識を覚える、あるいは自分で調べて知識を獲得するなど、知識は構成的に学びながら、現代的な諸課題の考察や課題解決的な授業が増えるでしょう。ほかにも、英語科は4技能の育成に力を入れていくことになりますし、情報科もこれまで以上に重視され、ICTリテラシーの向上や課題解決能力の育成を目指します。
Q:2019年度より「高等学校基礎学力テスト(仮称)」が導入される予定ですが、これは高校においてどういう位置づけのテストになりますか。
鎌田:「高等学校基礎学力テスト(仮称)」は全ての高校生が身につけるべき学習内容を示すことで学習意欲を喚起するとともに、学習や指導の改善に生かす狙いがあります。
浅野:このテストは当面、大学入試には使われないのですよね。その先にはどういう議論があるのでしょうか。
鎌田:はい、当面は試行実施期間と位置づけられており、大学入試の材料には使われません。ただし、 2023年度の大学入試からこのテストの評価を調査書に記載する等、何らかの形で入試の材料に利用するかどうか今後も議論される予定です。調査書に書くとなるとテストの意味合いがまったく違ってきます。これまで大学側は大学入試の際、それぞれの高校における評定平均値を見ていました。しかし、全高校生を対象としたテストを活用することで、受験生の相対的な比較が容易になり、その結果、学校間格差も一目瞭然になるでしょう。
●記述量が増え、高い思考力が求められる高校入試
Q:いま高校入試はどのように変わってきていますか。
浅野:近年高校入試においても「思考力・判断力・表現力」を問う問題が多く出題されるようになりました。それが顕著に表れているのは、圧倒的に記述量が増えたこと。これは国語科や英語科だけでなく、数学科なら証明問題に加えて、解答に至る途中過程を記述する問題、理科や社会科なら因果関係を説明させるものや、資料やグラフ、図表などを読み取って記述させる問題などが出題されています。記述量も多くなっており、教科によっては200~300字程度の記述が出題されることもあります。以前なら教科書を一通り暗記しておけば7割~8割取れた問題もありましたが、最近ではそうそう一筋縄ではいかなくなっています。事実、公立入試の平均点は低くなってきており、都道府県によっては全受験者の平均点が100点満点中30点台という教科もあります。それだけ問題が難しくなっているということが伺えます。
鎌田:高校入試に記述問題が増えていますが、その一方で正解を特定しやすい出題が多いとも聞きます。実際はどうなのでしょうか。
浅野:このところ公立高校入試で採点ミスが出ていることもあり、マークシートによる解答形式の導入に踏み切るなどの動きもあります。一方で、前述の通り記述問題も増えているのですが、指定語句など複数の解答条件を入れて解答のばらつきを少なくし、採点の負荷を下げるような問題も見られます。結果として、記述問題でも正答率の高い問題も出てきています。このあたりが各都道府県で数万人が受験する高校入試の悩ましいところで、受験生の思考力や表現力を的確に図りつつ、選抜の公平性を担保していくことは決して易しくないと思います。
鎌田:新しい大学入試で想定されている記述問題は、たとえば「自分の考えを、根拠をもとに述べなさい」というようなもの。正解は特定できないので、採点の観点は論理性や構成力、文章の正しさなどになります。高校入試では、まだそこまでは求めていないということでしょうか。
浅野:これまでのように、多くの中学生が受ける高校入試において、一種類の入試問題ですべての学力層のすべての観点をはかるという方法には一定の限界があります。そのため、難関校といわれる一部の高校では独自問題を作成し、大学入試に出るような記述問題を取り入れる動きもあります。今後は大学入試で記述が増えることもあり、難関校だけでなく全体的にこういった記述問題が増えてくる可能性はあります。一方で、選択式問題であっても高い思考力を問う問題は出題されており、しばらくは手を替え品を替え、さまざまなタイプの問題が出題されることでしょう。
Q:独自問題とはどのようなものですか。
浅野:独自問題とは、都道府県が作成する共通問題とは別に、一定の進学校群や各高校で独自に作成する問題のことで、自校作成問題、学校独自問題などさまざまな種類があります。解答形式は記述が多く、たとえば数学なら解答用紙の半分くらいが記述欄になっていて、なぜこの答えになるのか途中過程を説明するなど、難易度の高い問題が多くみられます。難関校では共通問題では得点の差がつきにくいので、難問で点差をつけて受験生を選抜しているのです。
Q:これから高校入試はどのように変わっていくのでしょう。
浅野:入試制度は完成形があるようでないもの。時代の変化や子どもの学習状況に合わせて毎年何かしら変わっています。数万人の中学生が一斉に受ける高校入試は、教育だけでなく各自治体、引いては国にとっても非常に影響力が大きい。だからこそ、常に検証とヒアリング、それをもとに議論を重ね、ここぞというタイミングで修正しているのです。今度の大学入試改革も、高校入試に少なからず影響を及ぼすでしょう。なかでも英語科は大きな変化が予想されます。すでに大阪府は4技能のバランスのとれた獲得を目指し、英語検定などの外部検定の取得級(または得点やレベル)をもって入試における一定の得点に読み替えるしくみが導入され、英語の入試問題(発展的問題)の設問はすべて英語で問うなどの変化もみられます。ちなみに、公立高校入試は国の教育方針の変更には大きく影響を受けますが、私立高校は学校によってさまざまです。私立の難関校は以前から入試で高度な思考力を問う問題や難易度の高い記述問題を出しているのでいまさら方向性を変える必要がないという事情もあります。
●基礎基本と学習態度を身につけ、来るべき変化に向けて対応を
Q:変化する高校教育、高校入試にあたり、いま中学生のうちからできることは?
浅野:これからの子どもたちに必要な力として、思考力や記述力などいろいろなことが言われていますが、だからこそ基礎・基本が大事になってくることを、声を大にして言いたいですね。基礎・基本というと誰にでもできる簡単なことと思われがちですが、逆に言えば、学習の度に何度も出てきて、常に振り返る必要がある重要事項ということ。小学生、中学生のうちに基礎学力をしっかり身につけることはその後の学習の土台となり、どんな変化にも柔軟に対応できる力になるはずです。それから、もうひとつ大切なのが学習態度。高校入試では内申点に関わることで、「先生の話を集中して聞けない」「忘れ物が多い」「提出物を出していない」などは、観点別学習評価の「関心・意欲・態度」にも大きく影響します。学習態度はすぐに身につくものではないので、保護者の方も「忘れ物はないかな?」といった声かけをするなどして、早いうちから意識させてほしいですね。
鎌田:学校教育は学習指導要領によって変わりますが、義務教育までは基礎基本の徹底も大切です。今度の教育改革によって、学校の授業では言語活動が活発になり、協働で学び合う機会が増えていくでしょう。それは集団で学ぶ学校ならではの学びといえます。ただ、こういった学びが増えていく一方で、従来の基礎学力も維持しなければなりません。これからの家庭学習では、基礎基本の学びを効率よく行いつつ、学校での課題解決的な学習に必要な言語の能力・スキルを高める工夫が必要です。学校での協働的な学び、家庭での個人の学び、それぞれの特長を生かした学びが、これからの時代に求められるのではないでしょうか。
(取材日:2017年3月1日)
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