毛筆が苦手な子どもの「書き初め」サポート法

冬休みの宿題で、お正月の「書き初め」に取り組むお子さまも多いのではないでしょうか。ただ、お子さまが「毛筆は苦手」と感じている場合、保護者のかたはわが子をどのようにサポートしたらよいでしょうか。そこで今回は、書写指導の第一人者・横浜国立大学教授の青山浩之先生に、子どもがやる気になる書き初めのサポート法についてお聞きしました。

この記事のポイント

お手本と自分の字を比べることから始めよう

冬休みに「書き初め」の課題が出されると、「お手本をよく見て書きなさい」と声かけをする保護者のかたが多いのではないでしょうか。しかし、お手本をよく見るだけで、字を上達させるのはなかなか難しいものです。そこで、私がおすすめするのが、下記の方法です。

〜青山式 書き初め練習法〜

【1】試し書きをする
まずは、あまり細かいことを指示せず、お子さまに1枚書かせてみましょう。これを試し書きといいます。その際、お手本を見ても見なくても、どちらでもかまいません。

【2】試し書きとお手本を比較する
自分の書いた試し書きとお手本を並べ、どこが違うのか比較させましょう。その際のポイントは2つあります。1つ目は、お子さま自身にどこが違うのか見つけさせることです。2つ目は、違ったところのうち、特に直したい箇所を、2つか3つに絞って決めさせることです。保護者のかたは、欠点がたくさん目に入るかもしれませんが、その全てを指摘されたら、お子さまは気が滅入ってしまって、練習する気になりません。口を出したい気持ちをぐっとこらえて、お子さまの気づきを待ちましょう。そして、課題を見つけることができたら、「よく気づいたね」とほめてあげましょう。保護者のかたにほめられると、お子さまは前向きに練習に取り組めるはずです。直したい点は、試し書きに赤いペンで書き込んでみると、課題意識が明確になります。例えば、もう少し横画を長く書いたほうがよいと思えば、赤いペンで書き足しておくのです。この工程は、保護者のかたが手伝ってあげてもよいですね。

【3】直したい点に注意して書く
直したい点に注意して、再度書かせましょう。お子さま自身がどこをどう直せばよいか、課題意識をもって練習できることが大切です。一文字だけ気になるなら、その部分だけを取り出して練習してもよいでしょう。そして、課題が直せたら、たくさんほめてあげます。お子さまは達成感が得られ、「最初の課題は直せたけれど、次はここも気になる。もっと練習しよう」という意欲が高まってくるはずです。

【4】課題が克服できたら清書する
【1】~【4】をくり返し、直したい課題がだんだん克服できてきたら提出用の作品を仕上げましょう。最後に、学校に提出する作品はお子さま自身に選ばせてあげるのがよいと思います。自分が取り組んだ課題がはっきり意識されていれば、自分で納得いくものを選べるはずです。もしお子さまが迷ってしまうようでしたら、試し書きと比べてどのように成長したかを判断材料とするようにアドバイスしてあげてください。

ポイントをおさえて見比べる

上記の【2】のプロセスで、お手本と試し書きを見比べる際、お子さまがどんなところを見ればよいかわからないこともあると思います。その場合は、字形を整えるときのポイントをおさえて、見比べてみるようにアドバイスしましょう。下記の3つの観点を参考にしてみてください。

1)線の長さ

横画や縦画などの長さをお手本と見比べましょう。例えば、「王」という字は、1本目と2本目の横画はほぼ同じ長さです。そして3本目が長い横画になります。横画が複数本ある場合は、長短をつけることで字形が整います。

2)線の方向

次に線の方向に注目してみましょう。例えば、「友」という字には、左はらいが2つあって、その間がだんだん狭くなっています。これが「友」という字の特徴です。こうした方向にも注目することで、その文字の特徴を的確にとらえることができます。

3)線の間隔

最後は、線と線の間隔です。すき間の大きさがそろっていることが、文字の形が整ってきれいに見える大きなポイントなのです。例えば、「川」という字は、3本の縦画のすき間を均等にすることを意識してください。縦方向の画と横方向の画が組み合わさった「用」のような字の場合は、四角いすき間の大きさが同じになるように意識して書いてみましょう。
このことを青山メソッドでは「すき間均等法」と呼んでいます。
(http://benesse.jp/kyouiku/201412/20141225-1.html)

他にも字形を整えるポイントはありますが、まずはこの3点に気をつけるだけでも整った字を書くことができると思います。

毛筆学習は課題解決学習

毛筆の使い方にまだ慣れていない3年生の場合、字形(線の方向やすき間など)を整えるのが難しい子もいると思います。その場合は、とめやはねといった正しい筆遣いができているかどうかに絞り、練習するとよいと思います。一方、字形が整ってきた5、6年生の場合は、字の並び方(配列)もお手本と見比べてみるように促しましょう。おおむね、筆遣い→字形→配列の順に取り組むのが効果的です。

そして、どの学年のお子さまであっても、お子さまの気づきや発見を大切にしてあげてほしいと思います。なぜなら私は、書写学習で大切にすべき点は、「課題解決学習」だと考えているからです。書き初めにおいても、上手に書くことだけがゴールではなく、子ども自身が、どこをどう直したら形が整うのかに気づき、修正をくり返し、課題を解決していくプロセスこそが重要だと思います。そのプロセスを楽しめるよう、保護者のかたにサポートしていただきたいと思います。

プロフィール


青山浩之

横浜国立大学 教育人間科学部教授。全日本書写書道教育研究会理事、全国大学書写書道教育学会常任理事。全国の小・中・高校の「書写」「書道」の授業の指導方法や、教員の育成など、「書写・書道教育」全般を研究するほか、講演活動やテレビ出演など多方面で活躍中。

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