第1回:“?”の時代がやって来る。21世紀を生き抜く中学生の未来

今の中学生がちょうど働き盛りを迎えるのが、2030〜2040年頃。
その頃の日本、そして世界はどのような時代を迎えているのでしょうか。
現在、国が検討している教育改革の議論をもとに子どもたちの未来について、ベネッセ教育総合研究所の渡邊直人がお話します。

●今の子どもたちは「厳しい挑戦の時代」を迎える?

今から2年前の2014年、当時の下村文部科学大臣が示したある文書が話題となりました。国の教育のあり方を考える「中央教育審議会(以下、中教審)」という会議で示されたもので、以下のような言葉で始まっています。

「今の子供たちやこれから誕生する子供たちが成人して社会で活躍する頃には、我が国は厳しい挑戦の時代を迎えていると予想されます。生産年齢人口の減少、グローバル化の進展や絶え間ない技術革新等により、社会構造や雇用環境は大きく変化し、子供が就くことになる職業の在り方についても、現在とは様変わりすることになるだろうと指摘されています」

実はこの文書、2020年以降の「学習指導要領」(学校で指導する内容や考え方について定めたもっとも基本的な文書)について、中教審に検討するよう指示したときの「諮問文」。ここまで未来をシビアに表現したのは珍しいことです。それでは「厳しい挑戦の時代」とは、いったいどういう時代を意味しているのでしょうか。下の図は、西暦2100年までの年表に、今の中学生たちのライフステージを重ねたものです。これを見ながら考えてみましょう。

注)シンクタンク各社の将来予測やその他各種資料をもとにベネッセ教育総研で作成。

●日本では働き手が減少、世界はアフリカの時代へ

現在の日本の出生数は年間約100万人ですが、2030〜2040年頃には約70万人台まで減少し、総人口も2050年ごろには1億人を下回るのではないかと言われています。働き手となる若い人が減るなかで、どのように社会を支えていくかが大きな課題になるでしょう。また、国が進めている働き方改革の影響で、さまざまな働き方が出てきます。正規労働と非正規労働の境目はあいまいになるでしょうし、いくつかの仕事を掛け持ちするなど、就職の概念そのものが変化することも予測されます。

世界に目を向けると、東アジアの生産年齢人口が減少に転じ、いわゆる“アジアの時代”から“アフリカの時代”へのシフトが進むとみられています。言葉や価値観の多様化がさらに進むので、そこでは英語力だけでは通用しない別のスキルも必要になってくるでしょう。もちろん、そうした能力が問われるのは国外だけにとどまりません。今や町工場にもNASAからロケットの部品の注文がメールで入る時代です。国内にいても、いわゆる「グローバル人材」としての力が必要になってくるはずです。

ところが、若者の海外志向に関する意識は低迷しています。産能大学が2015年度に新卒入社した新入社員を対象に行った調査では、「どんな国・地域でも働きたい」と答えている人が9.1%に対し、「働きたいとは思わない」が63.7%と過半数を超えています。依然として“内向き志向”が続いています。

●AIが人間の能力を超え、労働人口の49%が機械に置き換わる??

今の中学生が大人になる頃、直面するのはグローバル化だけではありません。実は科学技術の側面からいえば、今の中学生が40代になる2045年頃には人工知能が人間の能力を超えるシンギュラリティ(技術的特異点)に到達するといわれています。2015年に、野村総研とイギリスのオックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授、カール・ベネディクト・フレイ博士が行った予測では、10~20年後には、日本の労働人口のうち49%が、人工知能やロボットに代替可能になるとの結果が出ています。

その一方で、デューク大学の教育学者キャシー・デビッドソン氏が「2011年度にアメリカの小学校に入学した子どもたちの65%は、大学卒業時に今は存在しない職業に就くだろう」と述べているように、テクノロジーの発展や産業構造の変化により「新しい職業が数多く生まれる」ことも十分ありうる未来です。機械にはできない、人間ならではのアイディアや創造性をどう発揮していくか? 未来の社会で問われる力は様変わりしているでしょう。

●正解のない時代だからこそ「主体的に学び続ける力」が重要に

では、この変化の激しい時代を子どもたちが生き抜くためには、今からどのような力を育んでいけばよいのでしょう。

先の諮問文では、「こうした変化を乗り越え、一人ひとりが豊かな人生を追求し、豊かな社会を実現するためには、高い志や意欲を持つ自立した人間として、他者と協働しながら価値の創造に挑み、未来を切り開いていく力を身につけることが求められる」というような内容に続きます。つまり、知識や技能を習得しているだけでなく、実社会でそれらを活用すること。さらには、自ら課題を発見し、解決に向けて主体的・協働的に取り組む姿勢が重要になってくるというわけです。

これから起こる変化が、私たちにどのような影響をもたらすのか、すべて予測するのは不可能です。しかし、まずは「未来はどうなるかわからない」と認識し、わからないことに対しても前向きに取り組み続けることこそ大事ではないでしょうか。実際、ある高校でこのような未来予測についてお話しする機会をいただきました。生徒や先生に聞いたところ、「仕事がなくなる」「競争が厳しそう」と後ろ向きに捉えている意見があった一方で、「新しい職業が生まれる」「どこにいてもチャンス!」と前向きを捉えている意見も多くありました。予測を悲観的に捉えて後ろ向きに「備える」のではなく、解決すべき課題として捉えて「前向きに取り組む」。そういうマインドセットを持つ子どもたちがたくさんいたことを、とても心強く感じました。

「これからは正解のない時代だ」と言われます。いままでの知識習得型の学びには正解がありましたらが、これからは正解のないところから答えを探す力が必要になってくるでしょう。それは、子どもたちだけでなく、私たち大人にも必要なことだと思います。

次回は、これからの時代を見越して日本の教育はどのように変わっていくのか、戦後最大の教育改革のなかのひとつ、次の学習指導要領の改訂のポイントを解説します。

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プロフィール


渡邊直人

研究員
都内編集プロダクションにて、教育専門誌の編集に携わった後、2006年に(株)ベネッセコーポレーション入社。学校向け情報誌「VIEW21」、研究者向け情報誌「BERD」の編集担当を経て、現在は教育を取り巻く政治、社会、経済情勢に関する情報収集、将来の教育環境の予測等を業務とする。

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