文科省が広域通信制高校の質保証でガイドライン

少子化により、全国的に学校数や児童生徒数が減っているなか、学校数や生徒数が増えている教育機関があります。通信制高校です。多様な学習スタイルが可能な学校として期待される一方、一部の通信制高校による不祥事などが、大きな問題となっています。このため文部科学省は、通信制高校の教育の質を保証するためのガイドラインを作成しました。

急増する広域通信制高校の一部に問題も

文科省の学校基本調査によると、全日制・定時制の高校数は、1989(平成元)年度で5,511校だったものが、2016(同28)年度には4,845校に減少しています。これに対して、通信制高校は、84校から240校に増えています。

通信制高校が増えた理由の一つが、全国から生徒を集めることができる「広域通信制高校」の存在です。広域通信制高校は、1996(平成8)年度には全国で8校だけだったものが、2016(同28)年度は生徒募集停止校も含めて106校(公立1、私立86、株式会社立19)にまで拡大しています。

通信制高校は、リポートの添削指導と面接授業(スクーリング)が基本ですが、最近ではインターネットによる双方向授業などを取り入れている高校もあります。いずれにしろ、毎日登校する必要がないことが大きな特徴です。

当初は働きながら学ぶ社会人が主流でしたが、現在では6割以上を「無職」の生徒が占め、不登校や高校中退者などの受け皿となっている他、多様な学習スタイルが可能なことに魅力を感じている生徒も少なくありません。

サポート校などとの関係に適正化を求める

その一方で、広域通信制の一部では「ウィッツ青山学園高校」(三重県伊賀市)のように買い物などのお釣りの計算で数学の授業とみなすなど、不適切な教育をしていることが問題となっています。また、中には全国に学習センターなどを設置したり、民間のサポート校と連携したりしている学校もありますが、そこでは、教員免許のない職員が学習指導や試験をしているケースがあることも、文科省の調査で明らかになりました。

これに対して文科省は、「高等学校通信教育の質の確保・向上のためのガイドライン」を作成するとともに、2018(平成30)年度までを「集中点検期間」と位置付けて、広域通信制高校の教育の適正化に乗り出しました。

ガイドラインでは、添削指導やスクーリング、学習評価などは各教科の教員免許を持った教員がきちんと行うことなどを求めています。また、高校教育とサポート校での教育との間に、明確な線引きをするよう強調しています。

文科省の調査によると、広域通信制高校のうち51校が合計1,234か所のサポート校と提携しており、一部ではこの関係の見直しが求められることになりそうです。さらに都道府県など監督官庁は、定期的に広域通信制高校の実態把握を行うことも、文科省は要請しています。

一部の学校に問題はあるものの、広域通信制高校は、不登校や高校中退者の学び直しの場、多様な学びの場として、これからも大きなニーズがあることは間違いありません。ガイドライン策定を契機に、広域通信制高校が健全に発展していくことが望まれます。

※高等学校通信教育の質の確保・向上のためのガイドラインの策定について
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/125/houkoku/1377895.htm

(筆者:斎藤剛史)

プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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