小中学校の先生の数はどうなる 「定数構想」めぐり攻防か

文部科学省は、2017(平成29)年度予算概算要求に、公立小中学校などの教職員を、今後10年間で約3万人増やすという改善計画を盛り込みました。こう言うと保護者などには縁遠い話に聞こえるかもしれませんが、教員の数は直接、子どもたちの教育環境に影響してくる問題です。現在、何が焦点になっているのでしょうか。

通級指導、折衝ではなく機械的に決まる方式へ

教員数をめぐる課題の一つは「加配定数」です。公立小中学校の教員給与などの人件費は、国が3分の1を負担しており、その金額は、教員が何人必要かという「教職員定数」で算出されます。教職員定数には、学級数などで機械的に決まる「基礎定数」と、毎年度の予算折衝で数が決まる「加配定数」の2種類があります。

文科省は2017(平成29)年度概算要求の中で、今まで加配定数の扱いだった「通級指導」と「日本語指導」のための教員定数を、基礎定数に変更して要求しました。発達障害児の増加、日本語指導が必要な外国人児童生徒の増加などを受けて、そのための教員数を安定的に確保するという趣旨です。さらに、通級指導と日本語指導の加配定数がなくなったことで生じる余裕分を、いじめ・不登校対策、貧困による学力格差の解消などのための教員増に充てたいとしています。

これに対して、財務省は、通級指導と日本語指導の教員定数を基礎定数に組み入れることには賛成しているものの、加配定数の増加は認めない考えです。少子化による児童生徒数減少で、放っておいても、これから基礎定数は減少していき、そのうえで加配定数の増加を認めなければ、教員数全体を大幅に削減できる……という狙いです。つまり両省は、基礎定数の変更までは同じ方針でも、その後の加配定数の扱いについては、まったく別の考え方を持っているわけです。

カギを握る改善計画の策定

もう一つの課題は、中長期的な「教職員定数改善計画」の策定です。政府が認めた教職員定数改善計画があれば、今後、毎年度の予算折衝で、財務省が加配定数を大きく切り込むことが難しくなるからです。

言い換えれば、通級指導と日本語指導の教員定数を基礎定数に移すという文科省の戦略が功を奏するかどうかは、教職員定数改善計画を策定できるかどうかにかかっていると言ってもよいでしょう。文科省は、2017(平成29)年度から10年間で公立小中学校などの教職員を2万9,760人増やす計画を、概算要求の中に盛り込んでいます。

一方、財務省は、教職員定数改善計画の策定を、絶対に認めない方針です。仮に計画策定が認められなければ、児童生徒数の減少により、今後10年間で公立小中学校の教員は4万5,400人も減ることが見込まれています。年末の予算折衝の中で、文科省が教職員定数改善計画の策定に失敗すれば、公立小中学校の教育環境はより厳しいものになっていくことは確実です。

「加配定数」や「教職員定数改善計画」などは、一般の保護者などにとってあまりなじみのないものでしょう。けれどもこの二つが現在、子どもたちの教育環境の改善のために大きな焦点となっているということは、知っておく必要があるかもしれません。

  • ※文部科学省の2017年度概算要求(初等中等教育局)
  • http://www.mext.go.jp/component/b_menu/other/__icsFiles/afieldfile/2016/08/30/1376640_3.pdf

(筆者:斎藤剛史)

プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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