「いじめ対策法」の見直し始まる いじめの定義の明確化が大きな課題

文部科学省は、いじめ防止対策推進法や、いじめ防止基本方針の改正に向けて、有識者らによるいじめ防止対策協議会での議論を始めました。いじめの認知件数については、都道府県間で大きな差があることなどから、「いじめの定義」の明確化などが大きな課題の一つとなりそうです。

施行から3年で見直しを規定

「いじめ防止対策推進法」は2013(平成25)年に制定されましたが、同法施行から3年をめどに、必要に応じて見直しを求める規定があり、16(同28)年9月が3年に当たります。このため文科省では、同法や同法に基づくいじめ防止基本方針の改正を念頭に置いて、いじめ防止対策協議会で見直しを検討することにしました。同法は議員立法であるため、実際に改正が必要かどうか判断するのは国会議員となりますが、文科省では同協議会での検討結果を、改正論議の参考にしてもらう方針です。

課題の一つとして挙がっているのが、「いじめの定義」です。2015(平成27)年7月に岩手県矢巾町で発生したいじめを原因とする中学生の自殺事件を受けて、文科省は、集計中だった14(同26)年度「問題行動調査」のいじめの項目を再調査するよう、全国の教育委員会に指示しました。その結果、いじめの認知件数が当初より約3万件も増えた他、児童生徒1,000人当たりのいじめ認知件数で、最多の京都府と最少の佐賀県の間に30.5倍の違いが出るなど、都道府県間のいじめ認知件数の違いが大きいことも、改めて問題となりました。

再調査でいじめの認知件数が増えたのは、当初は報告しなかった解決済みの事案などを加えたことが、主な理由ですが、背景には、「いじめの定義」やその解釈をめぐる問題もあるといわれています。

「いじめの定義」めぐり解釈にぶれも

「いじめの定義」について文科省は、これまでも何度か見直してきました。当初は、「自分より弱い者に対して一方的に、身体的・心理的な攻撃を継続的に加え、相手が深刻な苦痛を感じているものであって、学校としてその事実(関係児童生徒、いじめの内容等)を確認しているもの」という定義でしたが、その後、「学校としてその事実を確認している」「一方的」「継続的」「深刻な」などの文言が削除され、2006(平成18)年度からは「一定の人間関係のある者から、心理的、物理的な攻撃を受けたことにより、精神的な苦痛を感じているもの」とされました。

また、2013(平成25)年度以降は、いじめ防止対策推進法の規定により「一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの」と定義されています。

これに対して、学校や教員の間には、「心身の苦痛を感じたと言われれば、すべていじめになってしまう」「定義が広すぎて、いじめに対する共通認識が持てない」など、定義の解釈に困惑する声も根強くあります。このため、いじめであるかどうか、解釈にぶれが出ないよう、定義をより明確化することが求められているようです。

さらに、学校に設置が義務付けられている、いじめ対策の組織などが、形骸化していないかどうかなども、見直しの課題となりそうです。

  • ※いじめの定義の変遷
  • http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2015/06/17/1302904_001.pdf

※いじめ防止対策協議会(平成28年度)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/124/index.htm

(筆者:斎藤剛史)

プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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