どうなる組み体操の扱い スポーツ庁が対応方針を通知

年間で8,000件を超す事故が起きている、運動会などでの「組み体操」の取り扱いについて、スポーツ庁は、「一律禁止」とはせず、安全指導を徹底させたうえで、実施するかどうかは学校などの判断に任せることを、全国の教育委員会などに通知しました。ただ、げたを預けられた形となった学校の間では、とまどう声も少なくないようです。

  • 馳浩文部科学大臣記者会見録(平成28年3月25日)
  • http://www.mext.go.jp/b_menu/daijin/detail/1368946.htm

多くの学校が、運動会などの種目として組み体操を実施する一方、四つんばいになって重なる「ピラミッド」、肩を組んだ人の上に立つ「タワー」などの種目で、高層化が競われ、骨折などの事故が多発していることが、一部で指摘されていました。さらに2015(平成27)年9月に大阪府八尾市の中学校で、10段のピラミッドが崩れるところがインターネットの動画投稿サイトに掲載され、その危険性が全国的な注目を集めるようになりました。

これらを受けた教委の対応は、(1)組み体操の全面禁止(千葉県柏市など)、(2)組み体操のうちピラミッドやタワーなど危険性の高い種目の禁止(大阪市など)、(3)ピラミッドやタワーの上限を示した段数制限(名古屋市など)……などに大きく分けられます。しかし、対応を決めかねているところも多く、文部科学省・スポーツ庁がどのような指針を示すかが、注目を集めていました。

スポーツ庁が示した通知は、組み体操を廃止したり、ピラミッドやタワーなどの特定の種目を禁止したり段数制限したりすることなどをせず、実施の狙いを明確にして、全教職員の共通理解を図ること、確実に安全といえなければ中止すること、特に体力的に個人差が大きい小学校では慎重に対応することなどとして、実施するかどうかは各学校の判断に任せるとしました。

馳浩文科相は、記者会見の中で、「組み体操をやるのなら、より緊張感を持って対応しなければいけない」と述べたうえで、「禁止を伝えるための通知ではない」と強調しています。組み体操の事故は多様で、ピラミッドやタワーが何段までなら安全という科学的根拠が示せないため、段数制限などに踏み切れなかったものと思われます。また、国が特定の教育内容などを禁止することは問題があると指摘する教育関係者もおり、通知の内容に関しては妥当という声が一般的なようです。

一方、学校などでは「『確実に安全に』と言われれば対応は困難」として、当面、組み体操の実施を見送る動きが広がりそうです。東京都教委は、組み体操の実施を市区町村教委の判断に任せることを通知しましたが、都立学校については、ピラミッドとタワーを2016(平成28)年度は「休止」することにしています。

一番大切なことは、どのように対応するのか、きちんと各学校で考えて判断することではないでしょうか。ピラミッドやタワーなどをやるのであれば、しっかりした計画と安全対策、そして、組み体操に関する教員への専門的研修が不可欠でしょう。いずれにしろ、伝統や恒例だからなどという理由で、安易に運動会などで組み体操をやることが許容されづらくなったことは確かなようです。

(筆者:斎藤剛史)

プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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