オランダの教育現場に見る「大人」の対応[やる気を引き出すコーチング]
昨年から、オランダの教育について、非常に興味を持って研究しています。コーチングの考え方や手法が、教育のそこかしこに盛り込まれているからです。また、子どもたちの学力も幸福度も共に高い国だといわれています。「もっとその本質に触れたい」と、昨年に引き続き、今年もオランダまで現場視察に行ってきました。
教育制度や手法のユニークさは特筆に値しますが、私はコーチの立場から、オランダの先生や保護者の皆さんの子どもに対する接し方に、非常に感じるところがありましたので、その点をご報告したいと思います。これは、現地に行って実際に触れてみて、初めて実感できる情報です。
「大人」は決して声を荒げない
オランダの小学校では、全員が一つのことに一斉に取り組むのではなく、子ども自身が学びたいことを自分で選び、自分のペースで取り組むという授業スタイルがよく見られます。じっと机に座って先生の話を聴くよりも、思い思いの場所で立ったり動いたり、友達と相談したり協力したりしながら、各自の課題に取り組む時間が長いのです。一見、休み時間のような授業風景です。先生はティーチングもしますが、コーチとして、一人ひとりに声をかけながら学びを促進させます。子どもたちは、基本的にやりたいことをやっているので、とても楽しそうに取り組んでいます。
時には、静かに先生やほかの子どもたちの話を聴く時間もあります。じっと座れなかったり、おしゃべりを続けたりする子どもも当然います。そんな時も、先生は、「座りなさい!」「静かにしなさい!」と声を荒げるようなことは決してありません。「今、何の時間だっけ?」「誰かが話している時はどうするんだっけ?」と穏やかに問いかけます。こうして、子ども自身が気付くことによって、しだいに、教室の秩序も保たれていきます。
集団登校はなく、保護者のかたが送り迎えをする光景がよく見られます。その様子を見ていても、大人が子どもと穏やかに向かい合っている姿勢が感じとれます。オランダでは、街を歩いていて、大人が子どもに向かって声を荒げる場面にまったくと言っていいほど出合いません。自分の思いどおりに子どもが動かないことに対して、感情的にどなったり、力づくで押さえつけたりするコミュニケーションがまったくないのです。まさに「大人」の対応です。
子どもたちは、自分の感情をコントロールできている人を「大人」として尊敬します。その人の言葉には耳を傾けてみようと思います。声を荒げなくても、子どもたちは静かに話を聴けるし、自ら動くのです。
「大人」は前向きな言葉を使う
今回は、学校視察の折に、先生のみならず、保護者のかたのお話を伺う機会もありました。学校の教育方針や子どもに対して、とても肯定的な姿勢が印象的でした。
保護者が、この学校に子どもを通わせていることを誇りに思う気持ちは、子どものやる気に大いに影響を与えると思います。学校や先生の悪口を言うことなどは、子どものやる気を引き出すうえでまったく機能しないことです。
ある小学校の校長先生の言葉です。
「大人が常に前向きな言葉を使うようにしています。私たちが子どもたちのお手本ですから」。本当におっしゃるとおりだと思います。
「ここができていないね」よりも「ここはできているね」、
「難しいね」よりも「やりがいがあるね」、
「まだできないの?」よりも「すぐできるようになるよ」など、
物事を肯定的にとらえて言葉にしていくことは、確実に子どもたちの意欲を引き出します。
教育とは、ただ制度を整備すればよいというものではないと感じます。「声を荒げない」「前向きな言葉を使う」だけでも、日本の子どもたちは、もっとイキイキと楽しく勉強にも向かえると確信します。子どもをコントロールしようとするのではなく、私たち大人が日々、自らの感情や言動のコントロールに努め、尊敬される存在でありたいと強く感じた今回の視察旅行でした。
『言葉ひとつで子どもが変わる やる気を引き出す言葉 引き出さない言葉』 <つげ書房新社/石川尚子(著)/1,620円=税込み> |