「受容」することで子どもは前向きになる[やる気を引き出すコーチング]

子どもの本音に、じっと耳を傾けて聴いていると、「本当にそうだよなー。そこが大事なんだよなー」とあらためて教えられることがあります。よかれと思ってかけている言葉でも、「子どもたちが望んでいるのはそういうことじゃないんだよなー」と実感します。



子どもの本音は「ただ聴いてもらいたかっただけ」

先日、大人に交じって、コーチング講座に参加していた中学3年生のAさんが話してくれました。

私が「学校に行きたくない」って言ったら、お母さんが「どうして?」って聞いてきたから、「友達にからかわれてイヤだった」って言ったら、「そんなの気にしないで。相手のほうが子どもなんだから。あなたがもっと大人になって」とか言われて、本当にイヤだったのに、ずっと「大丈夫! 大丈夫! 気にしない! 気にしない!」みたいな感じで話を聴いてくれなかったんです。
それで、私が学校に行かなくなったら、急に、「精神的に何か問題があるんじゃないか」みたいに思われて、「カウンセリングを受けてみたら?」とか「コーチングがいいみたいよ」とか言ってきて、今日、ここに参加するように言われたんですけど、私、精神的に変なんですか? ただ、からかわれてイヤだったってことを聴いてもらいたかっただけなのに……。

Aさんのこのお話を、講座に参加していた大人たちは、口をはさまず、最後までじっくりと聴きました。「そんなことないよ! 気にしないで!」と言う人はなく、ただ、「そうだったんだね」「そんな気持ちだったんだね」「本当にイヤだったんだね」とAさんの気持ちを何の評価も判断も加えず、受けとりました。いわゆる「受容」です。
最後に、Aさんは、「今日は来てよかったです。また学校に行こうと思います!」と言って、晴れやかな顔で帰っていきました。大人の私たちも、その爽やかさに心洗われました。

子どもがどんな気持ちなのかを聴かないうちに、よかれと思って、安易に励ましたり、アドバイスをしたりしがちですが、気持ちを受容してもらうだけで、子どもは安心感を覚えます。そうして初めて、落ち着いて前向きに考えられるようになるのではないでしょうか。



勉強前のクリアリングは効果的

「受容」に関連して、最近もう一つ、「面白いな」と思った事例があります。私の知人で、コーチングを学んだ塾の先生がいるのですが、彼の指導方法はかなりユニークです。授業に入る前に、「今、どんな気持ち?」と子どもたちに質問をします。一人ひとり、今の気持ちを話してもらいます。

「学校で先生に叱られて、ちょっとへこんだ」
「体育をがんばった」

と、今日あったことを話す子どももいれば、

「今、やる気ない」
「少し眠い」

と、率直な気持ちを話す子どもなどさまざまです。

彼は、それをすべて否定も肯定もせず、受容します。

「そうなんだね」
「そう思っているんだね」

すると、子どもたちは、言いたいことをどんどん言い始めます。それらを丁寧に受容しながら、
「ほかには? 何か言っておきたいことがある人いる?」
と促します。言いたいことが一通り出尽くすと、
「じゃあ! 今日のクリアリングタイムはここまで! 勉強に入るよー」と言って、授業がスタートします。わずか5分ぐらいの時間ですが、この時間があることで、子どもたちの内側にあったさまざまな感情がいったん落ち着き、勉強への集中力が格段に増すのだそうです。

私もよくコーチングの中で、このクリアリングという手法を用いますが、ポイントは、否定も肯定もせず、ただ受容すること。言いたいことを全部話したと相手が感じるまで続けること。それだけで、安心感と完了感が得られ、目の前の課題に集中して取り組めるようになるのです。

安易な励ましやアドバイスの前に受容。ご家庭でも試してみてはどうでしょう。

『言葉ひとつで子どもが変わる やる気を引き出す言葉 引き出さない言葉』『言葉ひとつで子どもが変わる やる気を引き出す言葉 引き出さない言葉』
<つげ書房新社/石川尚子(著)/1,620円=税込み>

プロフィール


石川尚子

国際コーチ連盟プロフェッショナル認定コーチ。ビジネスコーチとして活躍するほか、高校生や大学生の就職カウンセリング・セミナーや小・中学生への講演なども。著書『子どもを伸ばす共育コーチング』では、高校での就職支援活動にかかわった中でのコーチングを紹介。

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