改めて学びたい、お年寄りとの接し方【前編】

敬老の日が近づいてきて、「離れて暮らす両親のもとに子どもを連れて行こうかな」と考えている保護者のかたは多いのではないでしょうか。祖父母のかたと同居していないお子さまは、普段からあまりお年寄りと接することがなく、とまどうこともあるかもしれません。
おじいちゃん・おばあちゃんと楽しく過ごすには、どういったことを心がければよいのか、看護師で介護支援専門員の寺田敦子さんに聞きました。



子どもにはなかなか理解できない体の変化

高齢になると、動きがゆっくりになったり、痛みで体が思うように動かなくなったりすることがあります。年齢を重ねた大人ならまだしも、元気いっぱいのお子さまがそれを理解するのはなかなか難しいものです。

そんな時は、祖父母は「自分のお父さん・お母さんのお父さん・お母さん」だということをわかってもらうのがよいでしょう。お子さまが現在そうしてもらっているように、おじいちゃん・おばあちゃんは自分の両親を長い時間をかけて育ててくれた存在です。長年仕事をしたり、家事を続けてきたり、時にはおんぶや抱っこをしてくれたり……。それだけ体を使ってきたから、腰が痛くなったり、手首が痛くなったりするのです。「長い間体を使い続けてきたから、弱くなってしまったんだよ」と、教えてあげるとわかりやすいかと思います。

また、耳が遠くなったお年寄りに対しては、ついつい大きな声で「おばあちゃん!!」などと怒鳴ってしまいがちです。しかし、背後からの呼びかけなど、誰から声をかけられたかわからないような大きな声は、お年寄りには<騒音>に聞こえてしまうのです。何度も呼んでいるにもかかわらず反応がないのは、このような状況の時かもしれません。目と目を合わせて話をするのは、どの世代もコミュニケーションの基本ですが、小さなお子さまも、ぜひお年寄りの視界に入ってから話しかけてあげてください。

さらに、遠くからお年寄りに呼びかけると、振り返った際にバランスを崩して転倒し、骨折してしまうことも。お年寄りになると、反射神経が若いころのように敏感に反応できなくなり転びやすくなるため、このような状況で骨折事故が起こりがちです。

この点からも、お年寄りに声をかける時は、近づいて目が合ってからゆっくり話しかけるとよいでしょう。



がんこさは今までの経験の表れ

お孫さんからは、「うちのおじいちゃん(おばあちゃん)、がんこなんだよね」という声をよく聞きます。おじいちゃん・おばあちゃんは人生の大先輩。今までに成功や失敗を積み重ね、自らの道を切り開いてきた先人でもあります。「夜に出かけると危ないよ」としきりに言ったり、私たちが「こうしたほうがいいのに!」と思ったことも、かたくなにやり方を変えなかったり、といったお年寄り特有のがんこさは、自らの経験を次世代に伝えるための一つの手段といえるでしょう。

孫を愛おしいと思う気持ちから、自分の価値観を感情的に伝えるあまり、お孫さんは「うっとうしい」と思ってしまうこともあるかもしれません。たとえば、いつもは優しいおじいちゃんなのに、繰り返し同じ注意をする場合は、何か貴重な体験や意図が根底にある場合も。「どうしてそう思うの?」「なんで?」と聞いてみれば、きっと話してくれるはずですし、子や孫の世代に耳を傾けてほしいと思っているかもしれません。

また、がんこな面がある一方で、控えめに一歩下がった発言をするかたも多くいらっしゃいます。たとえば、のどがかわいた時に「ちょっとのどがかわいたのよね」「ちょっとお話がしたいんだけど」などという言い方をすることがあります。この「ちょっと」というのは、実は言う前に相当我慢をしていた可能性も。私たちが、「なんでそんなに遠慮するの?」と思うようなことは、お年寄りならではの奥深さの表れでもあります。自分は第一線を退いた存在で、少し後ろのほうから、子世代や孫世代を見守りたいという気持ちがあるのです。その気持ちをくんであげることも、敬老のよい心がけになるかもしれません。


プロフィール


寺田敦子

ベネッセシニアサポート主任相談員。看護師・介護支援専門員。慶応義塾大学病院看護師、介護老人保健施設「うなね杏霞苑」、伸こう会などを経てベネッセスタイルケアの職員に。認知症ケアセミナーや、介護の医療知識セミナーの講師も務める。

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