自ら確かめることで気付きや理解が膨らむ理科の授業
毎週のように学校を訪ね、たくさんの授業を見ています。そして、先生方から授業への想いを聞いています。
小学生から高校生、そして、先生や保護者のかたに役立つ教育番組を制作するためです。その中で、「こんな先生に教えてほしい」と思った先生方のことを書かせていただきます。
今回紹介するのは、愛知県の小学校で教えるAN先生の6年生の授業です。今回は電磁石について学びます。電磁石とは、鉄心にコイルを巻き、電池をつないで電流を流すと磁石になるものです。
AN先生の「理想の授業」は、子どもたちだけの力で学びが深まっていく授業です。そのために今回、用意したのは、魚釣り大会です。釣りざおは、先生の手作りです。釣りざおの先端には、電磁石が取り付けられています。このさおを使い、1人30秒で、班ごとに5回挑戦して、ホチキスの芯が留めてある魚のカードを釣り上げます。魚には点数が書かれていて、その合計点を競います。ちなみに大きな魚ほど高得点になっています。
でも、先生が釣りざおに取り付けた電磁石の力では、大きな魚を釣れないようになっています。そう、みんなトライしますが、誰も釣れません。子どもたちは自然と、どうしたらもっと力の強い電磁石になるのか?と思うようになっていきます。頃合いを見計らって、先生は、「じゃ考えてみよう!」と声をかけます。
まずは、一人ひとり電磁石の改造計画案を考え、アイデアを書き出します。
それを黒板に貼り、みんなで話し合いながらまとめると、予想した電磁石を強くする方法は、9つになりました。
(1)電池を増やす
(2)電流をたくさん流す
(3)鉄心を太くする
(4)鉄心の温度を変える
(5)エナメル線を短くする
(6)エナメル線を太くする
(7)エナメル線の本数を増やす
(8)エナメル線を巻く回数を増やす
(9)エナメル線をほかのものに変える
この中で、自分が調べたいことを選び、「学習課題」「予想」「準備」「実験方法」をまとめた計画書を書きます。そして、実験の方法とその理由を先生に説明して、納得してもらって、実験開始となります。
でも、先生は、温度を変えるなら「何度と何度で比べるの?」「比べるのを2つにする理由は?」など、疑問点を指摘します。子どもたちは答えながら自分の考えを整理するだけでなく、論理的に考える方法をつかんでいきます。
計画にOKが出たら、実験スタートです。
実験は3回行い、電磁石に付いたホチキスの芯の数の平均を出すというルールが徹底されます。
まずは、電池を増やしたAさんのメモです。
電池を倍にしたら、電磁石に付くホチキスの芯の数も倍になると予想しましたが、付いた芯の数も電流の量も倍にはなりません。なぜなのか? 疑問は膨らみます。そこで、思いついたのが、電池を3個にしたらどうなるのか?ということでした。早速実験してみると……
この結果から、Aさんが、わかったこととしてまとめたのは、「電池を増やせば電磁石の力は大きくなる。ただ、電池の数、電流の量、電磁石の力は、比例していない」でした。
続いて、Bさんは、鉄心の太いほうが力が強くなると予想しました。
この結果から、B さんは、「細いほうが力が強くなる」としました。しかし、同じように鉄心の太さを変える実験をしたCさんからは、「太いほうが力が強くなる」という結果が出ました。なぜ、結果が違うのか? Bさんが、結果の数字をじっと見つめ、「もしかしたら?」と思ったのは、数字が微妙な差しかないということでした。そこで、比べた2つの鉄心を改めて見直してみると、「比べた鉄心の太さに余り差がないのがいけなかったのでは?」と気付きました。早速、見た目に明らかに太さの違う2つの鉄心で比べることにしました。
結果は……
最初とは、逆の結果が出ました。
わかったことは、「鉄心は太いほうが電磁石の力は大きくなる」でした。
AN先生は言います。「みんなで同じことをやると友達のやっているのを見て、わかった気になってしまう。でも、このように、一人ひとりが実験すると、責任感やがんばらなきゃという気が起きる。すると、自分で解決しようという意欲が出てくる。それが理解を深めることにもつながる」
これは、自らの手で確かめ、気付いたこと、わかったことが膨らむ授業です。
ちなみに、授業の最後は、パワーアップさせた方法を全部詰め込んだ電磁石を作り、釣り大会です。前回は釣れなかった一番大きな魚をみんな楽々と釣り上げていきます。その時の子どもたちの誇らしい顔は今も忘れられません。