脳をつくる読書のススメ【前編】読書の効用とは?

お子さまは本を月に何冊読んでいるでしょうか。読書には、考える力や想像力を養い、脳を育む効果があります。だからこそ「小さいころから本をたくさん読むことが大切」とおっしゃるのは、言語脳科学を研究する東京大学教授の酒井邦嘉先生。読書が脳の発達にどのように影響するのかを伺いました。



得られる情報が少ないからこそ、想像力が身に付く

読書が脳をつくるというのは、次の3つの意味があります。

 (1) 言葉の意味を補う「想像力」が鍛えられる
 (2) 「自分の言葉で考える力」が身に付く
 (3) 読んで味わった経験を脳に刻むことができる


これらが相まって脳は変化し、成長し、つくられていくのです。自分が実際にしたことのない経験も味わえるのが、読書の明らかな効用です。また、想像力や考える力が身に付くことも大切です。もう少し説明しましょう。

私たちが外界から情報を得る主な方法には、活字・音声・映像があります。そのうち、最も情報量が多いのが映像です。たとえば、「思いがけないことがあった」と聞いた時、それがとてもうれしいことなのか、実はよくないことなのか、表情を見ればわかるでしょう。音声だけでも、声の抑揚を感じ取れば、本当にうれしいかどうかがわかるものです。ところが、活字で「思いがけないことがあった」と書いてあった場合、文脈がつかめなければ、実際がどうなのかはわからないのです。

このように、入力の情報量は、活字<音声<映像の順で増えていきます。映像は、情報量が多いので、ただ受け取るだけで、何を伝えたいのかがわかりやすいという利点がありますが、受動的に見たり聞いたりしていればよいので、考えずに受け流してしまいやすいという側面があります。

一方、活字を読むだけの読書は、受け取る情報量が少ないために、前後の文章の流れをくみ取ったり、その背後にある文脈や意味を考えたりと、相手が何を伝えたいのかを想像して、自分の言葉で置き換えながら補っていく必要があります。つまり、読書をすることで、本の限られた情報からどこまで書き手の意図どおりに復元できるかというトレーニングになり、想像力、そして自分で考える力が身に付いていくのです。



コミュニケーションにおいて大切な想像力

想像力を身に付けていくことは、人と人とのコミュニケーションにおいてとても大切です。自分の思いを伝えたいと思っても、うまく言葉にできなかったり、ちょうどよい言葉が見つからなかったりという経験は誰にでもあるでしょう。自分が思っているとおりに相手に伝えるというのは、難しいものです。相手が同じ言葉を文字どおり受け取ったとしても、その言葉を使った意図が、相手の脳の中で再構築されるとは限りません。

そうした際に重要になるのが想像力です。物事に対する価値観、言葉に対する認識、持っている知識や経験などが相手と共有されていれば、コミュニケーションに食い違いが生まれることも少なくなりますが、実際にはそのどれにもミスマッチが生じやすいものです。そこで、相手の意図に少しでも近づけるように、想像力で補わなくてはなりません。

情報を受け身で受け取ることに慣れてしまっていると、コミュニケーションにおいてもあまり深く考えることなく表面的にとらえがちになります。本来、文字にした段階で情報量はかなり落ちているのに、たとえば、自分に対して否定的なことを書かれただけで、相手の発言の意図を考えずに反撃に出てしまうことも起こりえます。他人に対する想像力が乏しいと、自己主張がぶつかり合うだけの殺伐とした社会になってしまうことでしょう。



小さいころから自分の言葉で考える

大人と比べると、子どもの脳はとても柔らかく、外界からの刺激をそのまま吸収していき、その繰り返しによって脳がつくりこまれていきます。たとえば、言語の習得がまさにそうで、乳幼児は、特に勉強していないのに、外界から言葉を受け取り、それを単語や文法などに分けて覚え、自ら再構成していきます。

そのようにして脳が発達していく大切な時期に、たくさんの本を読んで、いろいろな想像をして、自分の言葉で考えていく経験を繰り返すことは、とても重要です。大人になって、脳ができ上がってからする読書とは、その役割が違うのです。

読書は言葉の力を自然と伸ばしていけるので、とても奥が深いものです。活字が苦手なお子さまであれば、読み聞かせという方法もあります。今の子どもたちは、小さいころから映像を見る機会が多いですから、大量の情報を考えずに受け取ることに慣れてしまいがちです。その危険性に気付かぬまま成長していかないよう、ぜひ幼少期から読書をしてほしいと思います。

『脳を創る読書--なぜ「紙の本」が人にとって必要なのか』『脳を創る読書--なぜ「紙の本」が人にとって必要なのか』
<株式会社実業之日本社/酒井邦嘉/1296円=税込>

プロフィール


酒井邦嘉

東京大学大学院総合文化研究科教授。理学博士。専門は、言語脳科学および脳機能イメージング。人間にしかない言語や創造的な能力の解明に取り組んでいる。

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