デング熱から子どもを守る【前編】

昨年、約70年ぶりに大流行と報道され、大きな話題となったデング熱。今年も、国内では5月前半までで約80人の感染者が確認されており、昨年に引き続き流行する可能性があります。
大人に比べて蚊に刺されやすい子どもをデング熱から守るには、どうすればよいのでしょうか。
デング熱の実態と対策について、神奈川県立こども医療センター皮膚科部長の馬場直子先生に教えてもらいました。



蚊が媒介する感染症、デング熱

デング熱とは、蚊が媒介する感染症の一種です。ひとくちに蚊といってもさまざまな種類の蚊がいますが、デングウイルスをもっていることがあるのは、ヒトスジシマカとネッタイシマカの2種類だけ。このうち、日本にいるのはヒトスジシマカ、いわゆる「やぶ蚊」のみです。
デングウイルスを持つ蚊に刺されると、2~5日の潜伏期間を経たあとに、発熱や発疹、頭痛、吐き気、関節痛などの症状が出ます。
デング熱のウイルスを持っている人の血を吸った蚊がほかの人を刺すと感染が広がりますが、人から人には感染しません。



症状のポイントは発熱と発疹

デング熱の症状は風邪にとても似ているため、デング熱と気が付かないこともあります。普通の風邪と違うのは、熱が出てしばらくたつと発疹が出ることです。最も多いのは、風疹のようなポツポツした赤くて細かい発疹です。このような発疹と発熱がある場合は、デング熱を疑った方がよいでしょう。

また、処置が遅れたからといって重症になるということはありませんが、高齢者や乳幼児、腎臓・肝臓に疾患がある人は、出血傾向に注意してください。出血傾向とは、何もしていないのに血が出る症状のことで、鼻血や血便が出たり、あるいは消化器官から出血したりすることもあります。皮膚には、紫色の斑点(紫斑)が現れるので、この症状が出た場合は、早急に血液検査ができる病院にかかってください。
この症状を放置すると、1~2割の確率で死に至る場合もあります。



子どもは特に蚊に刺されやすい

蚊は、汗の匂いや、人間から吐き出される二酸化炭素に寄ってくるといわれています。子どもは大人に比べて新陳代謝が活発で汗をかきやすく、二酸化炭素の排出量が多いため、より蚊に刺されやすいのです。
また、蚊は日中よりも早朝と夕方のほうが、活発に活動するとされています。子どもにとっては夏休み中のラジオ体操の時間や、「夕焼けチャイム」の時間帯がこれに重なるため、蚊に刺される可能性は高まるといえるでしょう。



虫よけと長袖で蚊に刺されない対策を

デングウイルスを持っている蚊は見た目で判断できませんから、なるべく蚊に刺されないようにすることが、予防の最善策となります。

最も効果的なのは、長袖・長ズボンで皮膚を露出しないことですが、暑い夏にいつもこの格好でいるのは難しいと思います。こういった時には、虫よけシールや虫よけスプレーを活用しましょう。スプレーは、保護者のかたの手に一度シュッと振りかけてから、それをお子さまに塗るようにすると、スプレーを吸い込んだり、目に入ったりしません。お子さま自身でスプレーをする場合は、塗り残しがないか、保護者のかたが確認してあげられるとよいですね。首の横や、二の腕の外側、ひざの裏など、スプレーが届きにくい部位は塗り残しが多く、せっかく虫よけスプレーをしているのに刺されてしまうことが多いようです。

さらに、蚊取り線香や蚊取りマットをあわせて使うと、効果があがります。乳幼児がいる場合は、煙の出ない蚊取りマットを使いましょう。
また、蚊の発生源となる水たまりを作らないことも大切です。雨が降ったあとは、植木鉢の受け皿や、玄関先に置いたままにしている子どものおもちゃなどに、水が溜まっていることも。こまめに水を流して、蚊が卵を産み付けにくくするとよいでしょう。傘立ての受け皿にも見落としがちですが水が溜まっていることが多いです。

蚊に刺されてしまった場合は、やはり掻(か)くのはよくありません。掻くとそれだけ炎症が激しくなって、治りが遅くなりますし、ばい菌が入って飛び火になってしまうこともあります。
かゆみ止めの薬を塗って、掻かないように絆創膏(ばんそうこう)を貼るとよいでしょう。また、かゆみを抑えるために、刺された箇所を冷やすのも有効です。

プロフィール


馬場直子

神奈川県立こども医療センター皮膚科部長。滋賀医科大学医学部卒業。横浜市立大学医学部皮膚科、横須賀共済病院皮膚科勤務などを経て1994年より神奈川県立こども医療センター皮膚科医長。2002年から現職。横浜市立大学皮膚科臨床教授を兼任。

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