大学のアクティブ・ラーニング、「失敗」しないためには…?-斎藤剛史-

次期学習指導要領の改訂では、「何を教えるか」という知識の内容や量はもちろんのこと、必要な能力を身に付けるために「どのように学ぶか」ということが大きなポイントになっています。そこで注目されるのが「アクティブ・ラーニング」(能動的学習)という学習方法であり、大学では取り組みが進んでいることは以前にもご紹介しました。そこで今回は、大学でアクティブ・ラーニングに失敗したケースを集めた珍しい取り組みを紹介します。

文部科学省は「産業界ニーズに対応した教育改善・充実体制整備事業」を各地域の大学に研究委託しており、このうち「アクティブラーニングを活用した教育力の強化」をテーマにしていた三重大学・名古屋商科大学など7大学によるチームが「アクティブラーニング失敗事例ハンドブック(外部のPDFにリンク)」をまとめました。そもそもアクティブ・ラーニングとは、課題の発見と解決に向けて主体的・協働的に学ぶ学習であり、具体的には、問題解決学習、体験学習、グループ・ディスカッション、ディベート、グループ・ワークなどの方法があります。背景には、従来のような一方的に知識を伝達するだけの授業では、これからの社会に対応できないという考え方があります。

事例集では、さまざまなケースの失敗例が挙げられています。たとえば、地域のコミュニティーセンターで課外の体験学習を実施した大学では、一部学生の態度の悪さが問題となり、活動全体の雰囲気が悪化しました。その結果、やる気のある学生も意欲をなくし、地域における大学の評判も下がってしまう事態となりました。その原因として、地域活動に熱心でない教員を配置してしまったこと、教員主導で個々の学生の責任が明確でなかったこと、あいさつや言葉遣いなどの事前学習が不十分だったことなどを指摘。今後の対策として、学生の主体的行動を促す必要があること、学生間でチームワークを醸成する仕掛けが必要であることなどを挙げています。
また、グループワークで学生間の貢献度の差が大きくなってしまったケースでは、教員が学生の自主性を尊重して指導を控えたこと、学生間のリーダーシップが不足していたことなどが原因と分析し、対策として担当教員がグループの目標設定・進捗状況などを把握したうえで学生に活動させること、個々の学生がグループ内でどのような体験をしたかを自覚できるようにすることなどを求めています。このほか、アクティブ・ラーニングに対応した学習過程評価を取り入れたら、評価に時間を取られて逆に実質的な講義時間が減ってしまったケースなどもあります。全体的に見ると、教員の過剰介入や介入不足、学生の怠慢な姿勢などが失敗の原因となっているようです。

これらは大学の例ですが、これらの失敗例は高校以下でも参考になりそうです。いずれにしろ、これから学校の授業の在り方は大きく変わっていくことになりますが、一部には混乱も予想されます。保護者などもその変化に注目しておく必要があるでしょう。


プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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