小学校入学に向けて、感情をコントロールできる子になる【実践編】

小学校に入ると、これまでのように周囲の大人がサポートする機会が減っていきます。そのため、お友達とのケンカといったトラブルの解決を、お子さま自身がしなくてはいけないといったケースが増えるでしょう。その際に大切なのは、感情をコントロールする力です。家庭では、どのようにその力を育めばよいのでしょうか。前回に引き続き、発達心理学がご専門の聖徳大学准教授の佐伯素子先生に伺いました。



怒りを静めるには、前頭葉を使って思考することが効果的

喜怒哀楽など、人間にはさまざまな感情があるなかで、人間関係のトラブルの原因になりやすいのは、怒ったりイライラしたりする感情だと思います。ただ、怒ってしまうのは生理的な反応であり、それを誰も止めることはできません。脳にある扁桃(へんとう)体という部分が、自分の嫌なことや恐怖を感じると、私たちが気付く前に、身体反応を起こすようにほかの領域に信号を送ります。その作用で心拍や血圧、呼吸数の増大、発汗なども起こります。
それを静めるには、前頭葉を働かせて思考することが有効だとされています。具体的に言うと、なぜ自分は怒っているのか客観的に原因や状況を考えるのです。ただ、この行為は大人でも難しく、時間が経っても怒りを引きずってしまうことは少なくありません。特にお子さまの場合は、まだ前頭葉の機能が十分に発達していないこともあって、怒りがヒートアップしてしまうと、自分がなぜ怒っているのかさえわからなくなってしまいます。そこで、保護者のサポートが必要です。お子さまの感情を受け止める方法をご紹介します。

【STEP1】子どもの気持ちを受け止める
お子さまが怒ったりイライラしたりしている時に、保護者が怒っても効果はありません。まず、怒っているお子さまの気持ちを受け止めましょう。具体的には、子どもの気持ちに共感してあげて、気持ちを代弁してあげることです。たとえば、周囲の状況から考慮して「あなたはもっとAちゃんとゲームがしたかったのに、もう帰る時間だと言われて怒っているのね」という風に。すると、子どもは自分の気持ちを客観的に理解することができるようになります。その際、お子さまが非常にはげしく怒っていても保護者がつられて強い口調になるのではなく、お子さまが受け止められるくらいの強度で返してあげることが大切です。
こうした繰り返しで、言葉で自分の気持ちを伝えられるようになります。自分の気持ちを言葉で伝えられるということは、自分の思考を整理することができている証拠なのです。この方法は怒りの場面だけでなく、悲しいときやつらいときなど、さまざまな場面で応用できます。

【STEP2】怒りを増幅させるのもなだめるのも、考え方次第
感情を起こさないようにすることはできません。でも、感情が起こった状況を解釈し直すと、感情は静まっていきます。怒りの感情は、自分の目的が阻害されたときに起こります。「思いどおりにならないこともあるんだ」「いつも公平とは限らない」「こんなこともあるさ」と考えるだけでも、怒りは静まっていきます。どんなふうに考えると怒りが静まるのか、お子さまと一緒に考えていくとよいでしょう。



感情を抑えつけすぎるのもよくない

誰からも愛されるような子になってほしいという願いから、気になる点は叱り、直そうとする保護者のかたが多いと思いますが、行きすぎないように注意する必要があります。「いい子にしてほしい」という保護者の思いが強すぎる場合、お子さまが自分の感情を抑えてしまうことがあるのです。たとえば、「怒っている○○ちゃんは嫌い」というメッセージを繰り返し発信し、お子さまの怒りの気持ちを受け止めずにいると、お子さまは次第に怒りを抑え込んでしまいます。一見、育てやすくなったように思えますが、事態は深刻です。怒りの感情だけでなく、うれしい・楽しいといったその他の感情までも表現することが少なくなってしまうのです。
小学校低学年までのお子さまは、自分の気持ちを言葉でうまく表現することは、まだまだ難しいです。気持ちを行動でしか表せないことも多々あります。まだ準備段階だということを頭に入れて、あたたかく見守ってあげてほしいですね。次第に自分の言葉で伝えられるようになるはずです。



お子さまの喜怒哀楽を受け止めて

幼児期は心も体もぐんと発達してくる時期です。特に3~4歳は、とても伸びる時期です。ただ、自己意識が芽生えて、第1次反抗期も始まるため、保護者との衝突も多くなります。「嫌だ、自分でやる」と言っていたのに、「お母さん、できないー」とすぐに甘えてくるなど、駄々っ子のように振る舞うことがあります。そんな時に、「お母さんは知らない!」「だから言ったでしょ!」と言ってしまいがちですが、ぐっとこらえてお子さまの気持ちを受け止めてあげてください。どんな時でも、保護者は自分の気持ちを受け止めてくれる存在だということを示しておくのは、その後の育ちを考えるうえでもとても大切です。
思春期になると、幼児のころのように自分の気持ちをストレートに表現してくれなくなります。しかし、小さいころから保護者にしっかりと「自分の気持ちを受け止めてもらった」という経験があれば、なにか困ったことがあったら保護者、もしくは周囲の信頼できる人に相談できるようになります。
忙しい毎日のなかで、お子さまの喜怒哀楽に付き合うのは大変だと感じることもあるかもしれませんが、お子さまの目線に合わせて、できるだけ気持ちをくみ取ってあげてください。また、保護者のほうも自分の気持ちをお子さまに伝えていくとよいと思います。


プロフィール


佐伯素子

聖徳大学心理・福祉学部心理学科准教授。博士(心理学)、臨床心理士。専門分野は、発達心理学・発達臨床心理学。主に感情と心身健康・子どもの発達と可塑(かそ)性について研究している。著書に『きほんの発達心理学』(おうふう、共著)など

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