きつく言うより「急がば回れ」のコーチング[やる気を引き出すコーチング]
先日、久しぶりに、実家に戻り、小学2年生の甥(おい)っ子たちと過ごす機会がありました。「おばちゃん、遊ぼう!」と、まだ無邪気に声をかけてくれる年齢です。たまに会う私は、そんな様子をとてもかわいらしいと思いますが、毎日、一緒にいる保護者はそういうわけにはいかないようです。
「その前に、宿題は?」
「先に宿題やって!」
「今、やっとかないと、夜遅くなってから困るよ!」
「早く! やりなさい!」
たちまち、お母さんの怒声が響きます。
「まあ、まあ、お母さん、いきなり、そんなにきつく言わなくても……。『やらない』とは子どもはまだ一言も言っていないでしょう。言わないとやらないという前提で声をかけるのはやめましょうよ。それでは、かえって、やる気がなくなるでしょう」。心の中で思いますが、口には出しません。それを言っても、お母さんも穏やかな気持ちにはなれないでしょう。
穏やかな口調で話す
お母さんの言い分も受けとめつつ、ここは、コーチとしての腕の見せどころと思って、チャレンジです。
「Aちゃん、宿題って何があるの?」
まずは、穏やかに質問です。
「連絡帳に書いてある」
と答えながら、甥っ子Aは、まだ部屋中を駆け回っています。
「そうなんだ。おばちゃんにも見せて」
「えー!?」
「おばちゃんも宿題があるんだよね。Aちゃん、一緒にやろう!」
そう言って、私が自分のカバンの中から手帳を取り出すと、興味を持ち始めました。
「おばちゃんも宿題あるの? オレの宿題はね……」
Aもランドセルから連絡帳を出し、広げました。
「漢字ドリルと算数ドリル」
「これって、どこからどこまでやればいいの?」
「9ページの1番から10番まで」
「それをどうするの?」
「ノートに2回ずつ書く」
「ノートのどこ?」
「ここから」
と言って、おもむろに宿題に取り組み始めました。ここまでくると、あとは、難しくありません。
「Aちゃん、キレイな字だね! もう、こんな漢字書けるんだ。スゴイね!」
承認をはさみながら見守ること10数分。小学生の宿題など、サクサクと終わってしまいます。
最初に声を荒げるから、よけいに時間と労力がかかるのではないでしょうか。保護者のほうも、いろいろ忙しいと、「早く、早く!」と、あせる気持ちから、つい、きつい口調になってしまうのだと思いますが、「急がば回れ」です。まず、穏やかに声をかけ、一緒に座ってみる。それだけで、案外、早く取り組むように思います。
完了感を持たせる
晴れて宿題が終わり、甥っ子Aは、心おきなく遊べることになりました。ところが、そのうちまた、お母さんの怒声が……。
「ごはんだよー!」
「遊ぶのやめて! 早く来なさい!」
「はーやーくー!」
いやぁ、子どもってたいへんだなー。毎日、こうしろ、ああしろ、早くと言われ続けて……。
それでも、楽しい遊びは、すぐにやめられるものではありません。
「Aちゃん、どうする? ごはんだって」
とりあえず、穏やかに質問します。
「おばちゃん、もう1回!」
まだまだ遊び足りないようです。
「うん、どうする? お母さんがごはん作ってくれたんだけど」
「あと1回やったら」
「あと1回やったら、ごはんにする?」
「うん!」
「じゃ、約束ね」
「うん!」
くれぐれもお伝えしますが、ここでも、強制的にではなく、穏やかに対話をします。そして、1回だけゲームをします。
「じゃ、ごはんにしよう!」
「うん! 続きはごはんのあとね」
意外とあっさり動きました。やりかけていることを途中で、バッサリ中断されると、よけいに言うとおりにしたくなくなります。自分で「あと1回」と決めて、完了させることで落ち着きます。完了感が持てないうちは、どんなに声を荒げても、相手は動きません。言い続けるより、キリがよいところまで完了させてあげるほうが早いような気がします。
「そんなに待っていられない」「どうせ、1回じゃ終わらない」と思われるかもしれませんが、だからと言って、ただ一方的にきつく言い続けるより、こちらのほうが、よほどお互いのストレスが少ないように思いますが、いかがでしょうか?
『言葉ひとつで子どもが変わる やる気を引き出す言葉 引き出さない言葉』 <つげ書房新社/石川尚子(著)/1,620円=税込み> |