自ら判断する力を育てる 「道徳」教科化の真の目的とは
中央教育審議会が下村博文文部科学相に、小・中学校の「道徳の時間」を「特別の教科 道徳」(仮称)に格上げするよう答申したことをめぐり、新聞報道などでは「国が価値観を押し付けるのではないか」といった心配が根強い。しかし、答申では「特定の価値観を押し付けたり、主体性をもたず言われるままに行動するよう指導したりすることは、道徳教育が目指す方向の対極にある」とうたっている。教育ジャーナリストの渡辺敦司氏が詳しく解説してくれた。
***
これまでの道徳教育も基本としてきたことですが、実際には、学校の道徳教育、とりわけ「道徳の時間」が「道徳教育の要として有効に機能していない」(答申)のが現状です。道徳に関する学習指導要領や解説には、「道徳性」「道徳的実践力」「道徳的価値」といった専門用語が多く、中教審での論議のもととなった「道徳教育の充実に関する懇談会」でも、有識者委員から「現行の道徳教育は一般の人にはわかりにくい」といった強い批判もありました。道徳教育には家庭や地域の協力が不可欠で、専門家でない人にもわかりやすく説明する必要がありますが、教育の中身までわかりやすく変えたということではありません。
道徳の教科化は「学校でしつけをしてくれる」ことではありません。「道徳の時間」ないしは「特別の教科 道徳」(仮称)のねらいは、道徳的な価値そのものについて正面から考えさせ、特別活動や各教科の授業など学校の教育活動全体の中でも考えさせながら、自らの判断で行動できる人に育てていこうということです。
一方で、教科に格上げしなければならないほど、現在の道徳教育が十分に行われていない現状があることも確かでしょう。教科の授業に比べて道徳の授業は不得意だという先生も少なくありません。今後、個々の担任の先生が道徳の授業をしっかり行えるよう、研修や授業研究の余裕をしっかり持ってもらうことが欠かせないでしょう。
出典:教科「道徳」で何が変わる? 変わらない? -ベネッセ教育情報サイト