当たり前ではない経験が学びの意欲に 身近な物を使って「発見」を促す授業[こんな先生に教えてほしい]
毎週のように学校を訪ね、たくさんの授業を見ています。そして、先生方から授業への想いを聞いています。
小学生から高校生、そして、先生や保護者のかたに役立つ教育番組を制作するためです。そのなかで、「こんな先生に教えてほしい」と思った先生方のことを書かせていただきます。
今回紹介する授業は、宮城県のAJ先生が小学2年生に行ったものです。子どもたちからは……何度も「やった!」「うそ!」「なんだ、こりゃ?」という言葉が発せられました。これは、「身近な物を分解しながら、たくさんの発見と疑問を生み出す」授業です。
分解するのは、子どもたちが家から持ち寄ったいらなくなった物です。玩具・懐中電灯・ボールペン・ビデオテープ・洗濯ばさみ・鍋・やかん・時計(電池式)などなどいろいろ。これをAJ先生が選んだ5つの道具、プラスとマイナスのドライバー、ペンチ、木づちと金づちで分解します。この道具の共通点は、いずれも物の感触が手に伝わりやすいところです。
まず、分解したいものを自分で選び、自由に「分解」=「壊す」作業をさせます。力任せに叩いたり、開く場所を探したり、思い思いに試みます。
この時、子どもたちは、本当に楽しそうでした。
先生は、「物を壊してほめられる」ことは珍しい経験だからだと言います。つまり、身の回りの物は、たいてい「使用目的」が決まっていて、「分解」=「壊す」は、その当たり前ではない経験だから面白いというのです。
このような当たり前ではない経験をする機会を作ろうと意識している先生は、少ないような気がします。
この授業でAJ先生が大事にしているのは、子どもが「どうしてもできない!」とギブアップするギリギリの状況まで待って声をかけることです。そして、教える時は、「できた!」という達成感や「なるほど!」の納得感を必ず伴うように心がけています。
たとえば、ドライバーは、ネジを締めたりゆるめたりするだけでなく、「てこ」のように使う方法を教え、小さな力を大きな力に変える方法を伝えます。その時は、まず、先生が使い方を見せ、次に実際に体験させて、最後は成功させるまで続けます。
「やった!」の声のあとには「うそ?」が来ます。
子どもたちが驚いたことのひとつに、ペンチで金属が切れた瞬間がありました。切れないと思う物が切れた。しかも簡単に……自分の持っていた知識がひっくりかえった瞬間でした。また、さまざまな部品に「硬い」「柔らかい」物があることに気付きます。
これは、物と対話する授業ならではの面白さです。
最後に「なんだ、こりゃ?」。
物を分解する過程で子どもたちは、先生にも思いがけない発見をしていきます。たとえば、電話機の硬い金属プレートを外した時、基板に並んだ小さな素子を見て、「街みたい」とつぶやいた子。
ネジを外しながら、いろいろな大きさ・形・色があることに興味を持ち、「なんで?」とつぶやく子もいました。
ひかれるものを見つけた体験は、成長期には欠かせないことだと思います。
AJ先生の授業のこだわりは、「知識や経験に関係なく誰でもが参加できる授業」です。これは、「学ぶ気持ち」のスイッチを入れるためには欠かせない条件だと思います。
よい授業かどうか? その判断材料になるような気がします。