ペットが教えてくれること【後編】ペットが育む子どもの感性

前編に引き続き、麻布大学の太田光明先生に、ペットが子どもに与える「よい影響」について伺いました。



「言葉はいらない」が、子どもの感性を育む

人間同士は、言葉でコミュニケーションをとることができますが、ペットとのコミュニケーションはそうはいきません。この「非言語コミュニケーション」には、相手の気持ちを察するという、想像力や思いやりといった「感性」が必要です。もの言わぬペットとのふれあいは、子どもがこれらの感性を育むのに最適な体験だといえるでしょう。

そもそも人間同士のコミュニケーションも、言語によるものは全体の10%未満という説もあります。表情やしぐさ、手をつないだときの感触や声色など、私たちは非言語の情報を感じ取りながら、相手の気持ちや気分を想像し、相手を思いやり、コミュニケーションをとっているのです。豊かな感性を持つことは「生きるチカラ」につながります。その能力を高めるためにも、子どもとペットの「言葉はいらない」ふれあい体験は欠かせません。
ペットはまた、家族間の橋渡しもしてくれます。たとえば第2次反抗期を迎えた子どもがいる家庭では、とかく親子の会話が減りがちです。しかしそこにペットがいると、お互いがペットに語りかけるなどをすることで、なんとなく意思疎通ができ、会話が成立するようになります。反抗も、それほど激しくならない傾向もあるようです。前編でも述べたように、教室に犬がいるとけんかが減ったというのと同じ現象が、家庭でも起きていると考えられます。



ペットを飼うことをためらう日本の実状

動物愛護に関する世論調査」(内閣府・2010<平成22>年9月調査)によると、ペットを飼っている者の割合は34.3%であり、7年前の調査と比べて大きな変化は見られません。飼っている年代の割合は50代が最も多く、逆に少ない年代は30代・70代となっています。
ペットを飼わない理由として「十分に世話ができないから」が46.2%、「死ぬと別れが辛いから」が37.0%、「集合住宅であり、禁止されているから」が25.2%と続いています。

この調査から私が残念だと思うのは「子育て世代がペットを飼いづらいと感じている」日本の実状です。集合住宅のペット規制は、近年はこの調査に見られるほど厳しくなく、ずいぶんと緩和されていると思われます。それでも、核家族・共働きであったり、親世代がペットを飼った経験がなかったりすると、どうしても「十分に世話ができない」という結論に至ってしまうのでしょう。また、子どもがなかなか実感できない、貴重な「死(命の尊さ)」の体験についても、親世代自らが体験したくないようです。

一方、同じ調査で「ペットとして動物を飼うことについて、よいと思うことはどのようなことか」を聞いたところ、「生活に潤いや安らぎが生まれる」が 61.4%、「家庭がなごやかになる」が55.3%、「子どもたちが心豊かに育つ」が47.2%、「育てることが楽しい」 が31.6%となっています(複数回答)。
これらのことから、多くの人が「ペットを飼うことは子どもにとってよい影響を与える」と感じているにも関わらず、飼うことをためらっている現実が見えてきます。今後、欧米のように多種多様な家庭に対応した、しつけや世話のボランティアのシステムが充実することを願っています。



さわると「幸せホルモン」が分泌される

今まで、ペット(特に犬や猫、ハムスターや鳥といったさわれるペット)を飼ったことがないため、どこから始めてよいのかがわからないというかたも多いかと思います。そういう場合は、動物園の「ふれあい広場」やペットショップなどに行き、いろいろな動物を「見つめる」ことから始めてみましょう。
そのうち「さわってみよう」と思うはずです。スタッフや飼育員の指示に従い、やさしく、ゆっくりとなでてあげてください。慣れてくると、いい気持ちになりませんか? これは、人間の脳内に「オキシトシン」と呼ばれるホルモンが分泌されるからです。オキシトシンは別名「幸せホルモン」とも言われており、女性の場合は出産後の授乳時に分泌し、母性を目覚めさせる作用があります。男性も、ペットとふれあうことでオキシトシンを分泌することがわかっています。

ペットを飼っている高齢者の調査では、犬や猫にふれると血圧が下がり、心拍数が安定するというデータがあります。ペットとふれあい、世話をすることは、子どもだけでなく、すべての世代によい影響を与えます。メリットだらけのペットとの生活、ぜひ楽しんでください。


プロフィール


太田光明

麻布大学教授。農学博士。獣医学部・動物応用科学科・介在動物学研究室にて、セラピーアニマルなどの介在動物学の研究をさまざまな角度から進めている。

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