ついに始まった法科大学院の再編、今後の行方は?‐斎藤剛史‐

より実践的な法曹(裁判官・検事・弁護士)を育成するために制度化された法科大学院の大規模な再編が始まっています。既に今年に入って8校(5月末現在)もの法科大学院が2015(平成27)年度からの学生募集の停止を発表しました。これで法科大学院の学生募集停止校は廃校も含めて合計18校になる計算です。他にも募集停止を検討している法科大学院があると言われており、法科大学院の数はさらに減ることが予想されます。

法科大学院は2004(平成16)年4月にスタートしました。原則として法科大学院修了者しか司法試験を受けられなくなったことと、当初は修了者の7~8割程度が司法試験に合格できると見込まれていたことから、初年度には志願者が7万2,800人(志願倍率13.0倍)に上りました。しかし2014(平成26)年春の法科大学院入試状況(外部のPDFにリンク)を見ると、志願者は1万1,450人(志願倍率3.0倍)にまで減少しています。しかも、法科大学院の91.0%が入学定員割れを起こしており、法科大学院全体の入学定員充足率も59.6%と初めて6割を下回りました。

なぜ、法科大学院は不人気になったのでしょうか。原因の一つは、予定されていた司法試験合格者の大幅増員が、法曹関係者などの反対で実現できなかったことです。修了者の7~8割は法曹になれるはずが、実際には昨年の司法試験の合格率は25.8%にすぎませんでした。また、予想外に法科大学院が増えたことも原因の一つです。司法試験合格率が低迷する法科大学院が増えたことで、ピーク時の2007(平成19)年度には合計5,825人あった入学定員は、14(同26)年度には3,809人に減りました。一時74校あった法科大学院も昨年春までに廃止を含めて7校が学生募集を停止、加えて昨年末までに島根大学と大東文化大学、東海大学も学生募集停止を発表し、法科大学院の募集停止校は計10校となっていました。
ところが、さらに今年に入って信州大学、新潟大学、香川大・愛媛大連合大学院、鹿児島大学、関東学院大学、龍谷大学、広島修道大学、久留米大学の8校が学生募集停止を相次いで発表しました。わずか5か月で募集停止校が一挙に約2倍に膨れ上がったことになります。この背景には文科省による法科大学院の再編方針があります。文科省は、法科大学院を入学定員の充足率や司法試験合格率などで5段階に分け、最低ランクの大学院に対して2015(平成27)年度は補助金を半額カット、16(同28)年度には全額カットすることにしています。このため、今後も学生募集停止に踏み切る法科大学院が出ると予想されます。

ただし法科大学院の削減は、一部の有力校のみに学生が集中することを意味し、法曹の画一化につながりかねません。また、経済的理由などで法科大学院に入れない者に司法試験の受験資格を与える「予備試験」の今年の受験者は1万2,622人に上り、2014(平成26)年度の法科大学院志願者を超えました。これは法科大学院制度の根幹を揺るがしかねない事態です。法科大学院の縮小・再編は避けて通れませんが、それによって多様な人材により実践的な法曹教育を行うという法曹養成の理念が形骸化するようなことがあってはならないと思います。


プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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