大学の設置認可をより厳しく 経営悪化には立ち入り検査も‐斎藤剛史

民主党政権末期の2012(平成24)年11月に、当時の田中眞紀子文科相が「大学の数が多すぎる」として、文部科学省の審議会が新設を認可した大学に「不認可」を突きつけた騒動を覚えているかたも多いと思います。強い批判を受けて田中文科相は不認可を撤回しましたが、大学の数が多すぎるという意見には、それを支持する声も少なくありませんでした。このような中で文科省は、大学新増設の弾力化から厳格化へとかじを切りつつあるようです。

文科省は以前、大学の新増設を抑制する方針を掲げ、大学の新設などには厳しい審査を行っていました。しかし、政府による規制緩和の流れの中で2003(平成15)年に大学設置基準の弾力化を図り、大学の新増設について事前規制から事後チェックへと方針を転換しました。その結果、2002(平成14)年度に686校だった日本の大学数は、13(同25)年度には782校となっています。大学の急増については「大学教育の質の低下を招く」という批判も根強くありますが、文科省は「日本の大学進学率は諸外国に比べると高くない」という立場から、大学の新増設を強く規制せず、市場原理に任せるという姿勢を取ってきました。
しかし、ここにきてその姿勢を転換する動きが出てきました。文科省は今年4月から大学設置の審査基準を変更して、「学生確保の見通し」や大学設置に必要な資金が本当にあるかどうか、時間をかけて厳密に審査することにしました。これまでは、設置申請してから校舎の建設や教員の手配などを進めるという大学もあったことと比べると、格段に審査が厳しくなる見通しです。

この背景には、教員手配の見通しが不十分なまま設置申請に踏み切ったり、大学設置のための資金が確保できていないことが途中で判明して申請を取り下げたりする大学が増えてきたこと、さらに新設しても定員割れが続く大学が少なくないことなどが挙げられます。これらの見直しは、田中文科相が設置した有識者らによる検討会議が2013(平成25)年2月にまとめた報告書に基づくものですが、12(同24)年末の民主党から自民党への政権交代もあって実施が遅れていました。
このほか文科省は、2013(平成25)年3月に経営破綻(はたん)した創造学園大学を運営する学校法人堀越学園(群馬県)に解散命令を出した経験を踏まえて、少子化などにより経営破綻に陥る大学が増える可能性があることから、経営危機や法令違反がある大学などに対して文科省や都道府県による立ち入り検査ができるようにするほか、学生の募集停止などを命じることができるよう私立学校法など関係法令を改正することにしています。

現在でも文科省は、「日本の大学は多すぎる」という姿勢を公式には取っていません。しかし、大学設置認可の審査を厳格化することは、今後は大学の新設が実質的に抑制されていくことを意味していると言ってよいでしょう。大学進学率の上昇とともに膨張を続けてきた日本の大学は、大きな転換点を迎えつつあるようです。


プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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