増える学校施設の木材使用 校舎に親しみと温かみ‐斎藤剛史‐

校舎などの学校施設を思い浮かべる時、多くの人は四角い鉄筋コンクリートが浮かぶのではないでしょうか。年配のかたでなければ、個性豊かな木造校舎を思い浮かべる人は少ないと思います。ところが最近、鉄筋コンクリートの校舎から木造の校舎へと転換する学校が増えてきていることが文部科学省の調査でわかりました。今の時代に、なぜ木造なのでしょうか。

2012(平成24)年5月1日現在、幼稚園から高校まで全国の公立学校の校舎などの施設は39万1,187棟で、このうち約1割程度の4万232棟(10.3%)が木造施設となっています。木造施設自体は老朽化や耐震性などの問題もあり、以前に比べると減少しています。しかし、新しく建築された公立学校施設に占める木造施設の割合を年度ごとに見ると、2010(平成22)年度が14.9%、2011(同23)年度が15.2%、2012(同24)年度が20.0%となっており、最近では木造施設を新築する学校が増加傾向にあることがわかりました。学校種別に見ると、2012(平成24)年度に新しく建築された学校施設のうち木造施設が占める割合は、幼稚園が31.6%、小学校が16.8%、中学校が17.4%、高校が40.0%、特別支援学校が17.0%となっています。
さらに、鉄筋コンクリートなど非木造施設でも、床・壁・天井などに木材を使用した「内装木質化施設」は全体の55.2%を占めており、2012(平成24)年度に新しく造られた公立学校施設のうち75.3%(注:端数四捨五入のため先の数字との合計とは一致しない)に、何らかの形で木材が使われていると文科省は説明しています。

木造施設は耐震性への配慮が必要なことに加えて、現在では材料や工法などの関係で鉄筋コンクリートよりも木造施設のほうが建設費は割高となっています。鉄筋コンクリート施設の内装木質化でも余計な経費がかかります。にもかかわらず、なぜ木造施設が増える傾向にあるのでしょう。
大きな理由は、木材の持つ温もりや柔らかさが見直されているからでしょう。文科省の関係資料では、「学校で好きな場所があるか」という質問に対して、木造校舎の子どもたちに比べて、鉄筋コンクリート校舎の子どもは、「好きな場所はない」と回答する割合が高いという研究結果が紹介されています。また、木材を利用した学校施設は、「子どもたちのストレスを緩和させ、授業での集中力が増す効果がある」ほか、木材の床は結露しないので転んでけがをする子どもが少ないうえに、足にかかる負担も少ないということです。
このほか、鉄やアルミなどに比べて木材は材料製造時に要するエネルギーが少ないため地球温暖化の抑制に寄与するとして、文科省は以前紹介した環境に優しい学校を目指す「エコスクール事業」の一環として、木造施設や内装木質化に補助金を出しています。

学校は「学習の場」であると同時に、子どもたちの「生活の場」でもあります。機能性や経済性だけでなく、親しみや温もりなどにもっと注目するべきなのかもしれません。


プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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