子どものすこやかな足を育てる【前編】今、子どもの足に起きていること
近年、偏平足、足指の変形など、足にトラブルを抱えた子どもたちが増えています。足のトラブルは、悪い姿勢や骨格のゆがみなどの引き金となり、注意が必要です。スポーツ健康科学の立場から、長年、足と健康のかかわりについて研究してこられた桜美林大学の阿久根英昭教授に、子どもの足の発達と健康の関係について伺いました。
偏平足の子どもが増えている
土踏まずは、足の裏のアーチ状のへこみのこと。現存する動物の中で、唯一人間だけがもつ構造です。土踏まずは生まれつき備わっているのではなく、転ばずに歩けるようになる2歳ごろから、足の筋肉を使うことで形成されていきます。足の指から足首、くるぶしに向かって走る何層もの筋肉が、足の骨を下から支えたり、引き上げたりして、三次元のアーチをつくり上げていくのです。
土踏まずが形成されると、かかと、拇指球(ぼしきゅう)部(親指のつけねのふくらみ)、小指球部(小指のつけねのふくらみ)の3点で床を押して、バランスよく立てるようになります。また、重心移動や蹴り出しの際、衝撃を和らげるクッションとしても大切な役割を果たします。
土踏まずは本来、5~6歳で80~90%の子どもに形成されます。ところが、最近はこの土踏まず形成率が年々下がり、1988(昭和63)年には6割未満、2008(平成20)年の調査では50%を切っています。原因は、外遊びや歩いたり走ったりする機会が減ったことによる、足の筋肉の未発達と考えられます。
足指の衰えと姿勢の関係
さらに深刻なのは、足の指の機能の衰えです。
足指には本来、開いたり閉じたり上下させたりして微妙に動き、全身のバランスを取る機能があります。ところが、現在の子どもたちはほとんど足の指を使っていません。2008(平成20)年、幼稚園の年長組の子ども371人を調査したところ、足の指を全部開くことができたのは全体の1割ほど。土踏まずが形成されている子どもほど、指を開ける確率が高く、偏平足の子どもの9割近くが、まったく指を開けないことがわかりました。
土踏まずの引き上げに関わる筋肉は、そのいずれも、足の指につながっています。足の指をよく使うことが、これらの筋肉を引き締め、理想的なアーチをつくってくれるのです。逆に、指を使わないと、足裏の筋肉はゆるみ、偏平足になりやすくなります。足指の衰えと偏平足には、深い関係があるのです。
また、多くの子どもに、親指や小指が内側に曲がっている、指が床についていない「浮き指」など、指の変形が見られます。これは子どもに限らず、大人の男性の6割、女性の7割が「浮き指」といわれています。指の機能の低下により、現代人の重心の位置はしだいにかかと寄りになっているという報告もあります。
逆立ちでは、手の指を大きく広げて、体重をしっかり支えないと安定しませんね。これと同じように、足指を浮かせ、かかと重心で立った姿勢は、非常に不安定です。そのため、頭を前に出して背中を丸めてバランスを取りがちになります。近年、小さい子どもでも、背中を丸め、かかと重心で、足を地面に押しつけるようにぺたぺた歩いている様子をよく見かけますが、これも偏平足や足指の機能の衰えと関連があると思われます。
立ち方・歩き方のくせから生まれる脚長差
これまで、約6万人を対象として調査した結果、左右の脚の長さが1センチ以上違っていた人が、全体の半数以上いました。脚長差は、骨の長さの違いではなく、骨盤のゆがみから生まれます。片方の脚だけを多く使ったり、くせのある歩き方をしたりしていると、骨盤が左右どちらかに傾いたりねじれたりする原因となり、脚の長さの違いはそのことによって起こります。さらに脚の長さの違いは、バランスや姿勢などにも影響を及ぼすことが考えられます。小学校や幼稚園で調査を行うと、この傾向が子どもたちにも広がっているのがわかります。
たとえば地震などで足元が揺れた場合、体はこわばり、どこかに力を入れてバランスを取ろうとしますね。それと同じで、足元が不安定だということは、つねに体のどこかに、余分な緊張が生まれているということです。まっすぐに立てない、歩けないということが、疲れやすさや肩凝り、姿勢や骨格のゆがみにまで影響してくることが、近年の研究でしだいにわかってきています。
子どもの足のトラブルを防ぎ、すこやかな成長を促すためには、とにかく外に出て思い切り遊ぶこと、歩いたり走ったりすること、そして正しい靴選びが必要です。
次回は、正しい歩き方や、子どもの足の成長を妨げない靴選びのコツについて伺います。