PTA会費の流用、背景には教育予算の不足も-斎藤剛史-

いつも何とも思わずに学校に納めているお金の中に、PTA会費があります。しかし、そのPTA会費がどのように使われているのかを考えたことがあるでしょうか。文部科学省の調査では、全国の47都道府県20政令指定都市のうちの多くの教育委員会において、一部の公立高校で教員の補習指導に対する報酬や校舎の修繕などのために、PTA会費が「流用」されていたことがわかりました。どんな事情があるのでしょうか。そしてPTA会費はどう使われるべきなのでしょうか。

公立高校の教員が勤務時間中に補習をしても、それは仕事の内です。それに対して報酬をPTA会費から支払うことは、明らかに違法行為となります。ただ、早朝や放課後など勤務時間外に補習指導などを行う場合は、「公務員の兼業」として、教育委員会が許可すれば報酬を受けることができます。
しかし調査の結果、2007(平成19)年度から2011(同23)年度までの5年間に、北海道、茨城など合計18都道府県・政令指定都市(以下「県市」)で、PTA会費などから教員に報酬が支払われていたことが判明しました。判明した公立高校ではすべて、教育委員会から兼業の許可を受けていませんでした。関係者らの話によると、「昔からの慣行で、違法だとは思わなかった」ということのようです。不適切な報酬の支払いがあった公立高校は計470校に上ります。

一方、67県市のうち41県市では、校舎の修繕、部活動の交通費などの経費をPTA会費で賄っていたことも明らかになりました。
PTA会費から流用したケースを見ると、窓ガラスや照明器具の修繕、庭木の剪定(せんてい)など施設設備関係での流用が25県市、コピー機やプリンターなどの使用経費など備品・消耗品関係での流用が24県市などで、極めて広い範囲でPTA会費の流用が行われていました。
ただ、教員報酬など人件費の場合を除けば、PTA会費からの流用がすべて違法というわけではありません。文科省は「強制的に徴収するのではなく、PTA等学校関係団体等が真に任意に経費の支援を行うことは禁止されていない」と説明しています。ただ、保護者にとってPTA会費は強制的に徴収されているのも同然であり、学校側が保護者に十分な説明をしていなかったとすれば問題でしょう。

さらに大きな問題は、PTA会費の流用から、公立高校の予算不足がうかがえることです。ある高校関係者は「教育委員会に頼んでも予算が出ない。子どもの教育のためにはやむを得ない」と打ち明けます。
しかし校舎の修繕費などは本来、公費で負担すべきものです。安易にPTA会費の流用を認めることは、教育予算の不足という行政の怠慢を保護者に転嫁することにつながりかねません。学校側にも、PTA会費を便利な財源として見る甘えがあったことは否定できないでしょう。PTA会費の使い方には、行事などのPTA活動にとどめるべきか、学校の教育活動の一部も対象とするのか、これまでもさまざまな議論がありましたが、公費で負担すべき項目とPTA会費などで賄える項目の明確化、保護者の合意形成のルール化などが強く求められます。


プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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