ジメジメした梅雨を乗り切るコツ その1  なぜ梅雨時に心身が疲労するのか

「ホメオスタシス」が人間の体調を一定に保っている

さわやかな5月が終わると、じめじめした湿気の多い梅雨のシーズンがやってきます。梅雨時は体調を崩す人がとても多く、健康管理には気を付けなければならないということは皆さんよくご存じのことと思います。特にこの時期、お子さん達は元気に見えても、思った以上に体力を消耗していることがありますので、注意してあげてください。

ところで、皆さんは梅雨時に体調が悪くなる理由を考えたことがありますか?
「梅雨時は湿気が多いから」多くの人がそう答えるのではないかと思います。しかし、「湿気が多いとなぜ体調が悪くなるのか?」という点について考えたことのあるかたは少ないのではないでしょうか? 今日はそこからお話ししたいと思います。

まずは人間の身体にあるホメオスタシスという機能からです。
人間の身体は、外部の変化に対して、体内を一定に保とうとする機能が働くようになっています。これをホメオスタシス=恒常性、と呼びます。たとえば外の気温が上がると汗をかきますね。これは、汗をかいて体内の水分を外に出すことで体温の上昇を防ごうとしているのです。逆に寒い時には身体がガタガタ震えますね。これは身体を動かすことで体温を上げようとしているのです。つまり外の気温が上昇すると体温を下げようとし、外の気温が下がると体温を上げようとするのです。こうして人間の体温は、活動を行うために最も適切な36~37度という体温を保とうとしているのです。

このホメオスタシスは、体温の調節だけでなく、血圧の調節、体液の浸透圧の調節、ウイルスや細菌に対する抵抗などにも働きます。たとえば、体内にウイルスが入ってきた時、ホメオスタシスが働き、熱によって異物=ウイルスを殺そうとします。風邪を引くと発熱するのは、身体がウイルスと戦って起こる現象なのです。
ホメオスタシスという機能を司っているのは「自律神経」という神経系統です。外部の変化に対し、自律神経が身体の末端の神経まで、変化に対処すべき指令を送り、個別の変化に対して身体が、それに適した反応をするようになっているのです。
しかし、極端に暑かったり寒かったりすると、さすがに身体が対応しきれなくなり、体調を崩してしまいます。真夏や真冬に体調を崩しやすい理由はここにあります。

ホメオスタシスという言葉は、お子さんには難しいかもしれませんが、「なぜ暑い時に汗が出るのか。なぜ寒いと震えるのか。なぜ風邪の時に熱が出るのか」などは、ぜひお子さんにも教えてあげてほしいと思います。子どもは好奇心旺盛なので、きっと興味を持ちますし、お子さんの健康に対する関心を高めることにもつながると思います。



湿気が体力を奪うのはどうして?

ではなぜ、真夏ほど暑くないのに、梅雨時に体調が悪くなるのでしょうか? 暑くても、湿度が低くカラッとしていると、それほど体調が悪くならないのに、湿度が高いと体力を消耗して体調不良になります。また運動をしても、湿気が多いと体力の消耗が激しくなります。これはなぜなのでしょうか? 特に大人は経験的に梅雨に対する警戒心がありますが、子どもは知らないうちに身体のぐあいが悪くなってしまうことがあるので、湿気の身体に及ぼす影響については、よく理解していただきたいと思います。

気温が上がると、先ほど説明したように、ホメオスタシスによって、体温を下げるために汗をかきます。湿度が低くてカラっとしている時は、皮膚の表面に出た汗はすぐに蒸発します。こうして、体内から体の表面に汗を出し、それが蒸発していくことで、体温が下げられるのです。
しかし、湿度が高いと皮膚の表面の汗が蒸発せずに皮膚に残ったままになってしまいます。このために体温の調節がうまくいかなくなるのです。さらに汗が蒸発せずに皮膚の表面に残る状態が長く続くと、次第に汗腺=毛穴が広がりにくくなり、汗をかく機能自体が弱くなります。そうなると、体内に老廃物がたまりやすくなり、身体がむくんだり、だるくなったりしてくるのです。そしてその状態が続くと、ホメオスタシスを機能させている自律神経の働きにも障害が生じて、体温の調節自体ができなくなってくることもあります。このように、梅雨時は、特に体温調節の点において、人間の身体にとって不都合な季節なのです。
この時期、お子さんには必ずハンカチを持たせて、こまめに汗を拭く、また家に帰ったらシャワーを浴びる、などの配慮をしてあげてください。その時に、湿気が身体に及ぼす影響を説明してあげると、お子さんも面倒くさがらずに納得すると思います。

いかがですか。同じ気温が高い状態でも、湿気が少ない時はそれほど体力が奪われないのに、湿気が多いと身体がだるく感じてしまう理由がおわかりになったと思います。身体がだるいと気持ちまで沈んでしまい、何となく日常生活に悪い影響が出てしまいます。では、ジメジメした梅雨時を乗り切るためにはどうしたらよいのでしょうか? 次回はその方法についてお話ししたいと思います。


プロフィール


深代千之

東京大学大学院 総合文化研究科 教授。(社)日本体育学会理事、日本バイオメカニクス学会理事長、日本陸上競技連盟元科学委員。文部科学省の冊子や保健体育教科書の作成にも関わる。*主な著書:「運動会で1番になる方法」「運脳神経のつくり方」など

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