増えない「民間人教頭」、頭打ちの「民間人校長」

民間の柔軟な発想を公立学校の運営に取れ入れるため、政府は法律を改正して、教員免許がなくても、民間出身者を校長や教頭などの管理職になれるようにしています。「民間人校長」は2000(平成12)年4月から、「民間人教頭(副校長を含む)」は06(同18)年4月から、それぞれ制度的にスタートしました。しかし、文部科学省の調査によると、民間人校長の登用が頭打ちになっているほか、民間人教頭はいまだに全国で1桁台の人数しかいないことがわかりました。なぜなのでしょうか。

民間人教頭は、2010(平成22)年度で全国に52人います。しかし、よく見ると、養護教諭(保健室の先生)や教育委員会職員など、教育関係の仕事に就いていた公務員がほとんどです。純粋に民間から登用された民間人教頭は、制度が始まってから5年も経つのに、6人しかいません。
民間人教頭が増えない背景には、民間企業などと比べて、同じ「管理職」でも、学校の教頭が特殊な立場にあることが挙げられます。最近では「主幹教諭」という準管理職に当たる職も創設されて、学校組織も徐々に変わりつつあるのですが、多くの公立学校では、いまだに「校長と教頭以外の教員は、全員平等」という意識が、強く残っています。
校長と一般教員の間に立つ学校運営の「要」である管理職でありながら、実際には所管のはっきりしない仕事が全部回ってくるというのも、教頭の実態です。「蛍光灯の取り換えから花壇の水やり、ゴキブリ退治まで、あらゆる仕事をこなす」(ある教頭)ことさえあります。
実際、校長と一般教員に比べて、教頭の時間外勤務ははるかに長くなっています。そこに民間人が就いても、本来の能力を発揮するのは困難です。その証拠に、実際に純粋な民間人教頭が登用されているのは、比較的組織が大きい高校のみで、小・中学校は一人もいません。

一方、「民間人校長」は、実質的に01(平成13)年度の6人からスタートして、05(同17)年度の92人をピークに80人台で推移しており、10(同22)年度は86人でした。マスコミなどでも大きく取り上げられて話題になった民間人校長の登用は、既に頭打ちになっていると言ってよいでしょう。
民間人校長の中には、革新的な試みで、全国的な注目を集めた人がいたことも確かです。しかし「期待されたほどの成果はない」というのが、多くの教育関係者の一般的な見方です。

このように、一部の例外を除いて、民間人の管理職登用はあまり成功しなかったというのが実態のようです。民間人を生かせない学校組織の在り方に問題があるのか、それとも、学校そのものが民間人に向いていない存在なのか。今後しっかりと検証する必要があるでしょう。


プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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